直截だな
「ん、俺か? まぁ……、いろいろさ……」
「いろいろ……。ひょっとして、ラロワくんも地方の出なの?」
「ん? んー……、まぁ、そうだな。随分田舎だよ」
「じゃあ、ボクと同じだね」
「おまえは何でまた
「
「異民族に仕事取られたか」
「直截だな。でもまぁ、有り体に言えばそんなとこ」
イギコットは観光で栄えたとはいえ、地方都市である。大都市と比べてしまうと、それほど豊かというわけではなかった。そういう地方では、安い賃金で雇える異民族が帝国人に変わって労働力となっていた。
かつては地方で財を成した帝国人が、そういった異民族に仕事を奪われ、没落していった例も少なくなかった。そのような帝国人の中には子息を後宮に入れる者も出てきた。採用された際の一時金を得ると同時に、口減らしとするためでもあった。
「でも、仕事を取られた、っていうのは言い方だと思う」
と、チミスは言った。
「……どういうことだ?」
「別に彼らは仕事を泥棒したわけじゃない。どっちを選ぶかは雇う方の判断だから。彼らが一方的に奪った、っていうのは、なんか違う気がする」
「ふーん」
「でも、せっかく後宮に入れたんだから、もっと家の役には立ちたいとは思ったんだけどね」
帝妃の相手となれたからといって、王になれるわけではない。そもそも、帝国には王は存在しない。『王家』もない。帝妃が子を宿しても、その相手と姻戚関係が結ばれることはない。その意味で、帝妃とは帝国の全ての機関、団体から独立した存在とも言えた。
但し、帝妃の子の父となった淑子は、生涯に渡って本人のみならず、家族にも年金が支払われることになっていた。一生安泰を保証されたのだ。また、「帝妃と子をもうけた淑子」の家族ということで、その家にも箔がついたことだろう。しかし、後宮が設立されて以来、その恩恵に
「そういやおまえ、帝妃様には会ったんだよな?」
「うん」
「どうだった?」
「どう……、って何が?」
「顔とか」
「直截だな」
ラロワに限らず、帝妃は今どんな姿なのか、大抵の人間は興味を持っていた。
というのも、帝国に流通している帝妃の肖像画は、三十路前にしては若すぎるのだ。いや、幼すぎると言っても良い。
肖像画や写真の帝妃の顔は長らく変わっていない。実は帝妃の見た目は相当に衰えたのではないか、というのが専らの噂だ。事実、この十年ほど帝妃は公の前に姿を現していない。現せないのではないか、というのだ。
若かりし頃はその美貌を帝国民に振りまいていた帝妃だが、そんな彼女ももうすぐ三十。美貌を保つのも難しくなってきたとしても不思議はない。自分の衰えた姿を帝国民の前に晒したくはないのだ、という巷説かまびすしい。もちろんそんなことを公衆の面前で口にしたら死刑になることは間違いない。
「なぁ、いいじゃん。教えろよ」
「うーん……、それが、暗くてよくわかんなかったんだよねぇ」
「何だ、使えねぇな」
「ひどいな」
「まぁ、いいや。他にはどんなだった? 例えば、行く前とか、『十六夜の間』に入った後とか」
「うーんとね、『十六夜の間』まではレビド様が案内してくださったんだけど、部屋に入ると二人きりだった。ホントは一緒に来て欲しかったんだけど」
「え? 嫌だろ、普通」
「いやー、だって帝妃様だよ! もう、緊張しちゃって、息がうまく吸えなかったもん。レビド様が一緒だったら、もっと心強かったんだけど」
「えー、俺、あいつ嫌だなあ」
「直截だな。なんで? 良い人だよ」
「そうかあ? まぁ、いいやそれは。とにかく、『十六夜の間』には二人きりなんだな?」
「うん」
「で、その後は……、まぁ、ここにいるってことは、そういうことか」
チミスの部屋は宮殿から見て右の奥、つまり、淑子の序列で言うと最下層である。
「帝妃様のお気には召さなかったみたい。やっぱりボクじゃ無理だよね」
困ったような、どことなく寂しそうな、そんな笑顔をチミスは浮かべた。
「……あなたはここにはふさわしくない、って言われちゃった。できれば実家に帰った方がよろしいでしょう、って……」
「そんなこと言われるんだ……」
チミスでさえここまでお眼鏡にかなわないのか、とラロワは半ば呆れるような思いだった。
「まぁ、あれだ。これからまた、帝妃様も心変わりするかもしれないじゃん」
「うーん、無理だよ……。ボクなんかじゃ……」
「だから、そうやって諦めんなよ。おめぇでダメなら誰がお気に召されるんだよ」
「えーっと……、ラロワくん……とか」
「何言ってやがる」
「ホントだよ! だって最初見た時、女の子かと思ったもん」
「……んなわけねーだろ」
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