第23話




第23話(仮)「写真と、ふたりきりの夜」



ホテルの部屋に戻ると、すみれはそのままソファに倒れ込んだ。

「はぁ……もう足が棒……」

靴を脱ぎ、クッションを抱きしめる姿は、舞台上の女優ではなく完全に等身大の女の子だった。


「水、いる?」

遥がミネラルウォーターを差し出す。

「ありがと……」

冷えたボトルを受け取り、ひと口飲むと、ようやく少し落ち着いた。



テーブルの上には、茶色い封筒。

中から出てきた古い写真は、確かに高校の文化祭の時のものだった。


「……これ、三年の時だよね?」

「そう。うちのクラスが喫茶店やった時」

写真の中、すみれはメイド服を着て、客席の方を見て笑っていた。

――その笑顔の奥、ピントの外に、黒いフードの人物がぼんやり写っている。


「私、この時のこと……正直、ほとんど覚えてない」

すみれは首を傾げる。

「でも、覚えてるだろ? 俺、お前を呼び出して――」

遥が言いかけて口をつぐんだ。



部屋に、少し気まずい沈黙が落ちる。

テレビをつければ楽屋裏のようなバラエティ番組が流れているが、誰も見ていない。


「……ねぇ、なんでそんなにあの人のこと、気にしてるの?」

すみれの問いに、遥は視線を逸らす。

「理由は……たぶん、お前にも関係ある」


その時、スマホが震えた。

画面には、見知らぬ番号からの着信。

表示されたメッセージは、ただ一行。


“また屋上で会おう”


すみれが息を呑む横で、遥はスマホをテーブルに置いた。

そして、ほんの少しだけ笑って言った。


「……行くしかないな」



外では、東京の夜景がまばゆく光っている。

二人の距離は、写真よりもずっと近づいていた。



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