第22話




第22話(仮)「ビルの谷間で、君を見失う」



非常階段を駆け下りる足音が、金属を打つように響く。

「遥、待ってってば!」

すみれはヒールの靴で必死に階段を降りるが、遥との距離は広がるばかりだ。


「相手、まだ見える!」

「見えない! ていうか、なんで私まで……っ」

すみれは息を切らしながらも、遥の背中を追った。



ビルの非常口を飛び出した瞬間、朝の冷たい空気が肌を刺す。

向かいのビルから降りてきたはずの黒パーカーの人物は、すでに細い路地へ消えかけていた。


「行くぞ!」

遥が振り返りもせずに駆け出す。

「ちょっと! 私、運動部じゃないんだから!」

文句を言いながらも、すみれはつい足を速めてしまう。――この顔を見逃したくなかった。



路地を抜けた先は、人通りの多い商店街だった。

朝の通勤客や市場の準備をする人々でごった返している。


「見失った……」

遥が息を吐く。

すみれも膝に手をつき、肩で大きく呼吸した。

「……ねぇ、なんであんな必死になるの?」


遥は数秒黙り込むと、ポケットからスマホを取り出して画面を見せた。

そこには、先ほどの黒パーカーが撮ったと思しき写真が――ホテルの屋上の二人を、少し上から切り取った構図で。


「……今、送られてきた」

すみれは背筋が冷たくなるのを感じた。

「これ、さっきの“また会おう”って……」



そのとき、すみれの肩に誰かの手が置かれた。

振り返ると、笑顔の警備員が立っていた。

「すみません、お二人……こちら、落とし物じゃないですか?」


差し出されたのは、茶色い封筒。

そこには、古びたインスタントカメラの写真と、一枚の手書きのメモ。


“高校の文化祭、覚えてる?”



「……なんで、今これが」

すみれの声は震えていた。


遥は写真を光に透かしながら、小さく呟く。

「――やっぱり、あの時の奴だ」



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