第37話


第37話「修学旅行帰路、初めての手つなぎ」


──修学旅行最終日・朝──


窓の外を流れる山々を眺めながら、夜行バスの車内はまどろむ空気に包まれていた。隣の座席で、普段より少し大人びた表情の夏希が眠っている。俺はそっと彼女の手を覗き込み、小さく微笑んだ。


「まだ寝てるかな…」


軽く手を伸ばし、そっと夏希の手を握る。彼女の柔らかな温もりが、バスの揺れを和らげるようだった。



──帰校・昼──


学校前にバスが到着すると、班員たちが名残惜しげに荷物を運び降りる。俺と夏希もふたり並んで校門をくぐった。


「はるくん、昨日はありがとう」


夏希は手作りのチャームを胸元で撫でながら、ぽつりとつぶやく。俺は照れくさそうに笑った。


「こちらこそ、最高の思い出をありがとう」



放課後──


いつもの教室に戻ると、ふたりきりの空間が突然特別なものに感じられた。夏希は机に置かれたお土産の小箱を開き、お菓子を取り出す。


「はるくんにも…どうぞ」


手渡されたのは、温泉まんじゅうのミニサイズ詰め合わせ。俺はひとつ口に放ち、甘い余韻に浸った。


「ありがとう、おいしいよ」



そして、自然と手が伸びる。


「なあ、手つなごうか?」


俺はさりげなく夏希の手を覆い、指を絡ませる。彼女は驚いたように顔を見上げ、でもすぐに優しい笑顔を返してくれた。


「うん…これからも、ずっと一緒に」


俺の胸に、確かな温もりが広がる。


──帰ってきても、ふたりの物語はこれから始まる。


──つづく。

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