第23話

第23話「放課後図書館のドキドキ調査隊!?」


──翌々日放課後──


放課後の学校は、人気(ひとけ)が一気に引いて、廊下に背の高い本棚の影が長く伸びていた。俺と夏希は、図書館の自習スペースに向かって静かに歩いている。


「今日も宿題じゃなくて、調べものするんじゃなかったの?」


「そう。今度の文化祭で“青春ラブレター・コーナー”を設けるってクラス会議で提案されたから、その参考資料を集めに来たの」


夏希はリュックから小さなノートを取り出し、そこに「ラブレターの歴史」「名文ベスト10」などの見出しを書いていた。俺は本棚の隙間に並ぶ百科事典を見上げる。


「へえ、恋文コーナーか。なんかおしゃれだな」


「でしょ? そしたら、読みやすい文章サンプルとか、文豪の手紙とか、現代の有名人のラブレターまで網羅したいんだ」


「なるほど……結構、調査ボリュームあるな」


「だからこそ、はるの協力が必要なんだよ」


夏希は俺の肩をぽんと叩き、得意そうに笑った。俺は思わず苦笑いしながら、彼女の隣に並ぶ。



図書館の静寂を破らないように声をひそめながら、二人は本を巡る。


「これ、太宰治の恋文集……渋いチョイスだね」


「青春こそ苦悩の味ってことで」


夏希は本を開き、静かに読み始める。俺はノートパソコンを取り出し、キーボードをたたいた。


「……あ!」


急に夏希が指先でページを押さえ、尻を浮かせた。


「なんか、いいフレーズ見つけた!」


「どれどれ?」


俺が顔を寄せると、そこには青いインクで書かれた達筆な一文があった──


「君が窓辺に立つたび、世界は光を浴びて目覚める。」


「うわぁ……文学少女っぽい!」


「これ、文化祭のラブレター例文にピッタリじゃない?」


夏希は目をきらきらさせながらノートに速記する。俺も負けじと、自分オリジナルの短い例文を思いついてメモした。



ふと、窓の外から聞こえた声に二人とも立ち止まった。


「ここに、なにか怪しいものはないかー?」


声の主は白石瑞希だった。舞台部でライバルの彼女だ。図書館で調査? と思ったら、大きめの調査袋を抱えていた。


「白石さんも資料探し?」


夏希が声をかけると、瑞希は慌てて資料を隠すようにバサッと閉じた。


「そ、そうよ。実は私も、演劇祭で“恋文劇”を上演するプランを思いついてね。そのリサーチに来たの」


「え、恋文劇?」


俺は思わず二度見した。夏希も驚いた顔で瑞希を見る。


「そう。“屏風に文字が浮かぶ演出”とか、“手紙の声が聞こえる演出”とか……」


瑞希は自信満々に説明する。しかしどこか落ち着かなげで、目が泳いでいた。


「へえ……文化祭、いろんな企画があるんだな」


俺は否定せずに言った。夏希は小さく口をとがらせる。


「じゃあ……ライバル対決、避けられないってこと?」


瑞希はニコリと微笑んだ。


「そうね。友情か、愛か、どちらがより心を打つのか、競いたいの」



図書館の静寂が一瞬だけ重くなる。俺は咄嗟に夏希の手をポケットからそっと握った。


「夏希……」


「……うん」


二人の視線が交わり、胸がキュンとした。瑞希の姿が少し遠のいて見えるほどだった。


「私も、いい例文集めてるから……負けないからね」


夏希は小声で言い、再び本に目を落とした。俺はノートパソコンの画面を白石と夏希が交互に見ないように、そっとウィンドウを切り替えた。



その後は、お互いに意識しつつも、黙々と資料集めを続けた。ページをめくる音、パソコンのキータッチ音だけが響く。


終了時間を知らせる館内アナウンスが流れると、瑞希が本を片手に立ち上がった。


「それじゃあ、また成果を持ち寄りましょう」


「うん。瑞希さんも、がんばってね」


夏希は少しぎこちなく声をかける。瑞希は軽く会釈して、調査袋を抱えながら去っていった。


瑞希の背中を見送りつつ、俺は夏希に目を向けた。


「……夏希」


「あ、なに?」


「文化祭当日、俺たちの“青春ラブレターコーナー”……成功させような」


夏希は目を輝かせ、力強くうなずいた。


「うん! 絶対に、来場者みんなの心をときめかせてみせる!」


夕陽が図書館の窓を赤く染め、二人の影を長く引いた。


──三つ巴の恋文バトル、次はどんなドラマを見せてくれるのか。


──つづく。

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