第21話
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第21話「屋上のラブレター大混乱!?」
放課後の屋上。夏希はなぜかソワソワしていた。風が少し強い。スカートがふわりと揺れて、彼女の心の動揺をそのまま表してるみたいだった。
「ね、ねえ遥。これ……渡してもいいかな」
「は?」
差し出されたのは、クシャッと丸められた便箋。というか、紙くず一歩手前。
「これ、ラブレター……的な?」
「的なってなに」
「いや、ラブレターって言うとさすがに照れるし、なんかこう、あえて“的な”でボカしたいっていうか……」
彼女はゴニョゴニョと口ごもって、うつむいた。
俺は思わず笑いそうになった。が、ぐっとこらえる。本人はいたって真剣なのだ。
「じゃ、読むぞ?」
「ちょ、今ここで!?」
「読むって言ったじゃん」
便箋を広げると、そこには整った字で――いや、割と途中から走り書きっぽくなってるけど――こう書かれていた。
遥へ
君といると、時間がゆっくり流れる気がする。
どんなに嫌な日でも、君の声を聞くと心がほどけていく。
君の笑顔は私の太陽です。
これからも、できれば、そばにいさせてください。
……。
俺は読み終えて、無言で便箋をたたんだ。
「……」
「……ど、どうだった?」
夏希は、指先をぎゅっと握りしめながら尋ねてきた。顔は真っ赤だ。まるで屋上の夕焼けと勝負してるかのように。
「すげー真面目だったからビビった。もっとギャグ寄りかと思った」
「ギャグで告白するわけないでしょ!」
「でも“太陽”って、お前、俺を照らしすぎじゃない?」
「なにそれ、返しのクセが強い!」
「てか、これホントに渡すの?」
「う、うん……匿名でロッカーに入れようかと……」
「……匿名って。字、めちゃくちゃ夏希の字だったけど?」
「やっぱり!? だよね!? やっぱやめようかな!? でもせっかく書いたし……!」
あたふたする夏希を見てると、なんかもう、可愛いやら面白いやらでこっちが照れる。
「夏希」
「な、なに?」
「これ、お前が直接くれたんだから、俺からも直接返事するわ」
「えっ……」
「俺も、お前が隣にいてくれると、なんか安心する。っていうか、正直……けっこう嬉しかった」
「う、うそだ。さっき笑いそうになってたくせに」
「それは便箋が紙くずみたいに丸まってたからであって、内容には感動した。ちゃんと」
「ホントに?」
「ホントだよ。てか、お返しに俺も書くか? ラブレター的な」
「や、やめて! 絶対ふざけるでしょ、“君は僕の冷蔵庫です”とか書くでしょ!」
「なんだその例え。寒さを感じる愛か?」
「だからやめろって言ってんの!」
笑いながら、夏希は便箋をひったくる。
「じゃあもういい。これ、返してもらって、ちゃんと家で保存しとく。あとから読み返して、キュンってするやつ!」
「……そっちの方が乙女力高いな」
「うるさい!」
赤くなった頬を隠すように、夏希は腕を組んで顔をそむけた。でもその口元は、ちょっと緩んでた。
「じゃ、そろそろ帰るか。今日はなんか、めちゃくちゃ青春した気がする」
「うん。……あ、明日さ」
「ん?」
「もし……よかったらだけど、一緒に寄り道しない? コンビニでもいいから」
「ラブレターの返礼デートってやつ?」
「そ、そういうんじゃないけど……まあ、ちょっとだけ……ね?」
俺は笑って、うなずいた。
「了解。じゃあ明日、太陽と一緒に帰るわ」
「それやめろって言ったでしょ!」
屋上に響いた夏希のツッコミは、夕日よりもまぶしかった。
──つづく。
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