第16話
第16話「芸能人、映画祭の華やぎと影」
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朝靄(あさもや)の残る早朝5時、すみれと遥は小型バスの窓越しに見慣れぬ街並みを眺めていた。映画祭会場──Cinema Lumièreの本会場は、市の中心部にある歴史ある劇場だ。バスはゆるやかな坂を登り、赤い絨毯(じゅうたん)を敷いた大階段前に停車した。
「わ…すごい人…!」
「さすがシネマ・ルミエール…オープニング前からプレスとファンでごった返してる」
二人は深呼吸し、すみれがそっと遥の袖をつかむ。
さすが芸能人──立ち振る舞いひとつで記者のレンズを惹きつけるすみれの凜(りん)とした姿に、胸が熱くなる。
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1. レッドカーペットの洗礼
赤絨毯に足を踏み出すと、瞬時にフラッシュの嵐。
「朝比奈すみれさん、お久しぶりです! 本日はどのような想いで挑まれますか?」
「初めての国際映画祭参加です。現地の方々にも“隠し場所の世界”の世界観を届けたいと思っています」
報道陣のマイクを前に、すみれは落ち着いた口調で答える。だが、心臓は鼓動を早めている。遥はすみれの背後で、そっと手を差し出した。
“緊張しないで”──その掌(てのひら)のぬくもりが、スターダストのように胸を照らす。
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2. レセプションの裏側
夕刻、映画祭主催者によるレセプションパーティ。煌(きら)びやかなシャンデリアの下、国内外の監督・俳優が集う。
「朝比奈さん、ついにお目にかかれて光栄です」
フランス人プロデューサーが微笑む。通訳を介しながら、すみれは丁寧に挨拶を返す。遥は一歩下がり、二人を見守る。
しかし、パーティの片隅では、白石瑞希の姿が影のように動いていた。
“ライバル”は、ステージの光とはまた異なる冷たい視線で彼女を探している──。
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3. スクリーニング前夜の告白
深夜、控室の一室。壁には過去の受賞バナーが吊るされ、赤いソファと観賞用の簡易モニターが置かれている。
「はる、今日は本当にありがとう」
すみれは大きく息を吐き、監督バッジを外してテーブルに置く。
「君がいなかったら、ここまで来られなかった。明日は――君の声が必要なんだ」
すみれは涙ぐみながら頷き、静かに言った。
「私も…遥と一緒に夢を生きられて、本当に幸せ。明日は、二人で最高のフィナーレを迎えよう」
二人はそっと指を絡め合い、モニター越しに流れる自分たちの映像を見つめた。
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4. 翌朝、運命のスクリーン
翌朝、劇場の大スクリーン前。観客席は満席で、すみれと遥はステージ袖で待機する。モニターには上映順の名前が並ぶ。
──「朝比奈すみれ & 一ノ瀬遥『隠し場所の世界』」
呼び出しの声がかかり、二人は手を取り合ってステージ中央へ。
この瞬間、歓声とライトが二人を包み、まさに“さすが芸能人”の輝きを放つ。
だが、その直後──スクリーン脇から白石が歩み寄り、小さく囁いた。
「観ていてください。私も、すみれ先輩に負けませんから…」
すみれは一瞬言葉を失い、遥は固く拳を握りしめる。
ここに、二人を揺さぶる“影”が生まれた。
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