第9話

第9話「芸能人、秘密プロジェクト始動!」



演劇祭の熱狂が収まった翌日――教室には興奮と余韻がまだ漂っていた。


「すーちゃん、昨日は最高だった! まさか本当に遥くんが飛び入り参加するとは!」

「会場の空気が一気に変わったよね!」


クラスメイトたちの祝福を受けながら、朝比奈すみれは少し照れくさそうに笑った。


「ありがとう。みんなの前で、自分の気持ちをさらけ出せたのは初めてかも」


一ノ瀬遥も隣で微笑む。


「俺も、あんなにドキドキしたの久しぶりだったよ」


だがその矢先――授業終了のチャイムと同時に、校内放送が流れた。


「全校生徒の皆さんへ。今週土曜、校長室にて『スペシャルプロジェクト発表会』を行います。内容は後日配布のプリントをご確認ください」


「スペシャルプロジェクト…?」


すーちゃんの眉がわずかに寄った。


(校長室…また? でも演劇祭はあくまで“文化祭”の一環。これは別の話――)



◆謎のプリント


放課後、教室の机に置かれたプリントにはこう書かれていた。


【本校イノベーション委員会主催】

「次世代クリエイター育成プロジェクト」参加生徒募集!

応募資格:本校在籍の全生徒(個人またはグループ)

発表会:○月○日(土)13:00~(校長室にて)

内容:自ら企画したクリエイティブ作品(演劇・映像・アート等)を審査員の前でプレゼンテーション


委員会名にも発表の場が「校長室」にあることにも、何やら重々しさを感じる。


「クリエイティブ作品…うち、縁日屋台じゃ応募できないよなぁ」


隣で呟く一ノ瀬に、すーちゃんはしばらくプリントを見つめたあと、決意を込めて言った。


「……応募しよう。私たちなら、なにか面白い企画を出せる気がする」


「すーちゃん、演劇祭であれだけ魅せたんだから、演劇部で出すってのは?」


「演劇祭は“既存の台本”だったから…今回は“完全オリジナル”で勝負したい」



◆企画会議


その夜、すーちゃんはリビングでノートパソコンを広げ、一ノ瀬を呼び寄せた。


「ねぇ、こんなアイデアはどう?」


画面には、プロジェクト名としてのキャッチと企画概要が書かれている:


「隠し場所の世界 ―心の奥底を探る短編映像集―」

• テーマ:人が心の奥にしまった“本当の自分”を、短編映像で表現

• 構成:3~5分の映像×5本+制作プロセスのドキュメンタリー

• 役割分担:すみれが監督・出演、一ノ瀬が企画・脚本・撮影補佐


「とにかく、映像なら演劇とは違う表現ができるし、プロジェクターで校長室をミニシアターにできる」


一ノ瀬は感心しながら、メモを取る。


「いいね! 映像作品って新鮮だし、君の“素”も引き出せそう」


「それに…」


すーちゃんは少し照れた声で続ける。


「映像の最後に、はるにだけ見せる“エンディングメッセージ”を入れたいんだ」


「え、俺宛?」


「うん。ずっと支えてくれた御礼と、本当はこれからもずっと一緒にいたいって」


一ノ瀬の胸が熱くなる。


「それは――絶対にいい企画になる」



◆制作開始


翌日から、二人の秘密プロジェクトが動き出した。

• 放課後は教室や屋上をロケ地に、スマホや学校のビデオカメラで撮影

• 台本を練りながら、演劇祭とは違う“五感で感じる映像表現”を模索

• クラスメイトの協力を得て、小道具やBGMを用意


すーちゃんは自らカメラを操作し、一ノ瀬は台本の細部を書き直し続ける。


ある日の屋上撮影で、すーちゃんがふと呟いた。


「こうやってカメラの向こうを見つめるの、なんだか落ち着く…」


「演技祭のときとは違う、柔らかい表情が出てるよ」


その一言で、すーちゃんの目がキラリと光った。



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