第3話 絶望の初夜と仕打ち
「……これは、どういう事ですか?」
「はっはっは。まぁ姉妹仲良くいいじゃないか? 萌黄……そこで俺達が交わるところを見ているがいい」
「何を……」
「妹に、寝取られたって事を散々自覚するといいわ」
「一体何をするおつもりですか。わ、私は失礼します!」
「私達の言うことを聞かなければ明日、折檻が待ってるわよ!? そこで見てろって言ってんの!」
「折檻されようと、このような仕打ちを黙って我慢することなどできませぬ! お二人でお好きになさってくださいませ……!」
萌黄は、普段は優しく温厚で控えめだ。
だが、萌黄を大層かわいがってくれた祖父は気が強く曲がった事が大嫌いな職人気質だった。
それを引き継いで、萌黄も芯の気は強いのだ。
「馬鹿な女だね! ……じゃあ、もうしちゃおうよ。陸一郎……」
「ふふ……そう急くな。萌黄……拒否した事を後悔するんだな」
濃厚な口づけを始めて、陸一郎が真白の身体を抱き寄せた。
「し、失礼いたします!」
萌黄は、身震いを抑えながら部屋を出る。
部屋の前にいたメイドがなにか叫んでいたが、止まることなく部屋へ戻って鍵をかけた。
「……なに、どういうこと……怖い……狂ってるわ」
震えが止まらない。
あの時の真白の瞳。
憎しみが籠もった瞳。
妹は、陸一郎を愛していて、姉を憎んだのだろうか?
それならば、真白のいつものワガママで自分が陸一郎と結婚すればよかった話だ。
何故?
何故?
とりあえず、ここは地獄屋敷だ。
萌黄は震えながら、一睡もできずに朝を迎えた。
「この屋敷から、逃げなくては……」
萌黄はネグリジェを脱ぎ捨てて、自分の古着ワンピースに着替える。
萌黄が実家から持ってきた荷物は、本当に少しだった。
両親は萌黄には、古着を何年も着させて、何も与えない。
祖父から譲り受けた物と、数冊の本、そして少しの金。
両親はまだ帝都にいるが、助けを求めても無駄に感じた。
ならば、片道切符でも、どこかへ逃げ延びることができれば……。
だが、支度をしている萌黄の部屋の扉が開かれた。
「何をしているんだい!?」
メイドに恫喝され、萌黄が硬直してしまう。
「使用人の集合時間だよ! さっさとおいで!」
「……し、使用人? どういうことです……」
「あんたを使用人として扱い、躾けるように陸一郎様に言われたんだよ! この部屋も出な! 荷物をまとめていたならちょうどいいね!」
「私が……使用人……?」
真白が言っていた折檻とは、この事……?
「さっさとしな!」
「……いくらなんでも、このような仕打ちは……」
「うるさいね!」
「きゃ!」
なんとメイドが、萌黄の頬を打ったのだ。
父に暴言を吐かれ、母に鞭で叩かれ、真白に突き飛ばされる事はあった。
しかし全くの他人に殴られるには初めてだ。
痛さと衝撃で、萌黄はへたり込んだ。
「こんな面倒な仕事をさせられて、こっちも苛つくんだよ! ご指導代でも払ってほしいもんだよ!」
「あっ……やめてください!」
メイドは萌黄のボストンバッグをあさりだす。
萌黄が止めようと手を伸ばしたが、また突き飛ばされてしまった。
「なんだい、意味不明な道具に本? このボロ着も、私の方がまだ良い服を着てるよ! 宝石どころか、口紅のひとつもないのかい! あんた本当に令嬢かい!? 真白様の使用人じゃなくってかい!?」
酷い暴言だった。
「やっと財布が出てきた。……これっぽっち?」
「お、お返しください!」
「うるさいねぇ! 今日からネズミを食いたいかい!? 黙って渡しな!」
「何故こんなことを!?」
「上納金ってやつだよ。これから少しでも楽に生きたいなら、私に金を払わねばね。さぁ! さっさと来な!」
呆然とする萌黄のボストンバッグをメイドが持った。
「あっ……」
ボストンバッグには祖父から贈られた魔道具作りの本や道具が入っている。
だが、声を荒らげれば金目の物だとメイドは思うだろう。
バッグを人質にとられて、萌黄は黙ってついていく。
「こっちだよ」
朝だというのに、薄暗い離れの和式の家。
ここが使用人の部屋だという。
朝の支度をしてメイド服に着替えた使用人達が、萌黄を見る。
惨めな萌黄を見て嘲笑するようなニヤニヤを浮かべるメイド達だった。
「あんたの部屋ここ」
案内された部屋は、引き戸がもうボロボロ。
部屋は三畳間ほどで、畳はもう腐ったように凹んで、畳まれた布団も黄色く変色している。
窓は小さくて日も入らないので、かび臭く、ジメジメとしていた。
家具は、脇にろうそくのランプが置いているだけだ。
物置だと言われても、物が痛んでしまうのでは? と思うほどの酷さ。
人間がここに住もうものなら、心も身体も病むだろう……まるで牢獄だ。
「本当にここなのですか?」
「当然だろ。さっさと着替えてきな」
メイドはボストンバッグを部屋に投げ入れた。
そして、他のメイドから受け取ったメイド服も部屋に投げ捨てる。
「ニ分で着替えてこないと罰を与えるよ!」
「きゃ……!」
萌黄は腕を引っ張られて、物のように部屋に投げ入れられた。
汚い畳の上で、萌黄は絶望しか感じなかった。
ショックで身体が動かず、ニ分が過ぎてしまったので怒ったメイドに何度も頬を打たれた。
そして放心したままメイド服に着替えて、言われるがままに屋敷の玄関に立つ。
そこに陸一郎と真白が現れた。
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