第2話 結婚式そして初夜


 結婚式は、屋敷で開かれた。

 真白が『無駄遣いするもんじゃないわよ、お姉ちゃん』と言って、全てを決めた。

 

 結婚式と言っても、昔ながらの家でおこなう祝言のようだ。

 

 親族の前で誓いを立てるだけ。

 宴会料理もかなり質素なもので祝い金を包んだ親族達は、嫌な顔をして帰っていった。

 

「引き出物も軽い。地方から来て、このもてなしかい。来て、損したね」


「も、申し訳ありません……」

 

 謝り、見送るのは新婦の萌黄のみ。

 陸一郎は、屋敷の洋風パーティーホールで真白と飲み明かしている。

 

 萌黄の両親も、祝い金を見て嬉しそうに大酒を飲んで、これから帝都のダンスホールへ行って高級ホテルへ泊まるからと、出て行った。

 陸一郎の両親は既に他界している。

 

 花嫁姿で立ち尽くす萌黄に残るのは、恥ずかしさと情けなさのみ。

 食欲もなく、目眩がする。

 萌黄は一人部屋に戻ったが、後を追う者はいなかった。

 

「萌黄様、初夜のお支度をしてください」


 屋敷に仕えるメイドから言われた時、 ゾッとした。


「しょ、初夜って……本当ですか」


「はぁ? 何を言っているんですか」


 微笑んでいたメイドが、馬鹿にしたような冷たい態度に豹変する。

 

「あ……でも、この結婚は……」


「早く支度してくださいよ!」


「はっはい……」


 メイドに怒鳴られ、言われるがままに白い洋風ネグリジェを着せられた。


「それでは初夜のお部屋へご案内します」


「……はい……」


 このまま逃げ出してしまいたい。

 愛してもいない男に、抱かれる……?

 一体何をされるのか……。


「さっさと行きなさい」


 怯える萌黄を見て楽しむようにメイドが、陸一郎の部屋まで行くのを急かしてくる。

 この屋敷は和洋折衷で、洋室もあるが和室もある。

 今回の初夜は、知っている部屋へ案内された。


「こちらです」

 

「でも……この部屋は……」

 

 萌黄は戸惑う。

 この部屋は、真白が『ここがいいわー!』と選んだ豪華絢爛の客間だ。


「早く入りなさい」


 メイドとは思えない低い声での恫喝。

 萌黄は、ネグリジェの上に羽織った白いストールをギュッと握りしめて、部屋に入る。

 やはり真白が使っている部屋だ。


 この部屋は真白の部屋……なのに、やはり陸一郎はここの寝室にいる?


 メイドは中まではついてこなかった。

 萌黄は、まるで化け物屋敷を歩くように洋間を通り過ぎて寝室のドアをノックした。

 

「あぁ、萌黄。入れ」


 出迎えることもしないようだった。

 ギィ……と、萌黄はドアを開ける。

 

 目に入った天蓋付きベッド。

 そこに横たわるのは、夫の陸一郎。

 そして……その夫にしなだれかかっているのは妹の真白だった。


「ま、真白……?」


「ごっめ~ん。お姉ちゃんの旦那さん、寝取っちゃった~うふふ」


 


 

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