~お嬢様チームの作戦~
「先生、猫のことなんですけど……」
ユウキは生物室で顧問の机の前に立ち、意を決して口を開いた。
「もう少しだけ、生物部で面倒を見させてもらえませんか?」
顧問は腕を組み、渋い顔をする。
「うーん……あれは本来“特例”で預かっているだけだ。長期間は難しいぞ」
重たい沈黙が落ちた、その瞬間。
「先生」
沙羅が一歩前に出た。
「うちの父は動物愛護の活動にとても熱心なんです。学校がこうして命を守る姿勢を示せば……きっと先生の評価にもつながると思います」
「……ほほう?」
顧問の眉が、わずかに上がる。
「綾瀬さんのお父様は、学校にも何かと協力してくださっているしな……」
ユウキも、深く頭を下げた。
「お願いします。ほんの少しでいいんです」
顧問はしばらく考えた後、ため息混じりに言った。
「……わかった。あと少しだけ様子を見よう」
「ありがとうございます!」
胸をなでおろすユウキの横で、沙羅は勝ち誇ったように微笑んでいた。
「やったね。沙羅ちゃんのお父さんって、そんな活動までしてるなんてすごいね」
「そんなの──嘘に決まってるでしょ?」
「えっ……」
「利用できるものは、なんでも利用すればいいでしょ。結果を出すためなら、ね」
その目に迷いはなかった。
「さ、次に行こう。時間はあまり残ってないよ、ユウキくん」
(やっぱり……沙羅ちゃんには敵わないな)
ユウキは苦笑しながら、彼女の背中を追った。
*
職員室を出た瞬間、張り詰めていた空気がふっと緩んだ。
「ど、どうだった?」
廊下の壁にもたれて待っていた陽太が、落ち着かない様子で声をかけてくる。
その顔を見た瞬間、胸の奥で固まっていたものが少し溶けた。
「沙羅ちゃんのおかげで、なんとか……もう少しだけ待ってもらえることになったよ」
「おおっ! マジか!」
陽太は両手を握りしめて、心底ほっとしたように息を吐いた。
「よかった……ほんとによかった……」
その様子に、沙羅が胸を張ってくるりと振り返る。
「ふふ。このくらい、なんでもないよ。ね、ユウキくん?」
(いや、普通はできないと思うんだけど……)
そう言いかけて、やめた。
最近の生物室でのやり取りを思い出すと、余計なことは言わないほうが身のためだ。
「でさ!」
陽太が思い出したように声を弾ませる。
「俺のほうなんだけど、ちょっと使えそうな方法があってさ」
「えっ?どんな方法?」
「うん。実は時々、雄星さんの動画配信の技術サポートしてるんだ」
陽太が得意気に言った。
「……誰?」
ユウキが思わず首をかしげると、陽太は驚いた様子を見せる。
「え、マジで知らないの!? 学園一のインフルエンサーだぞ。フォロワー数、桁違いだから!」
「そうなんだ……僕、そういうの疎くて」
「まあ、ユウキはそうだよな」
苦笑しながらも、陽太は続ける。
「1番早いのは雄星さんの動画で紹介してもらうことなんだけど、あの人は熱狂的なファンがいるからおかしなことになりかねない。
そこで……」
「そこで?」
「俺が雄星さんから閲覧数を増やす方法を詳しく聞いて、飼い主を見つけるために猫の動画を広げるわけさ」
その言葉に、沙羅は一瞬だけ視線を落とした。
それから、ゆっくり顔を上げて、陽太の目をまっすぐ見つめる。
「私には陽太くんのほうが雄星さんより頼もしいよ……。すごく感激した」
「さ、沙羅ちゃんにそんなこと言ってもらえるなんて俺のほうこそ感激だー」
陽太は舞い上がった様子で力強く答えた。
「ありがとう、陽太くん。沙羅ほんとにうれしい!」
そう言って沙羅が両肩に手を置くと、陽太は耳まで真っ赤になる。
(沙羅ちゃんは僕の友達をどこに連れていくつもりなんだ・・・)
「じゃあ、陽太君。そっちは任せたからね。
ユウキくん、行こう。あまり時間もないよ」
と手を引いて外へ行くのを促す沙羅。
「あ、うん」
「ありがとう、陽太くん!」
沙羅とのあやういやりとりはともかく、こうして本気で手を貸してくれる陽太君が、なによりありがたかった。
ユウキは深くおじぎをして学校を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます