第14話 人間要塞
休憩時間が終わり、午後の部の最初の試合が近づく中、ラグナは闘技場の隅で静かにウォーミングアップを始めていた。体を回転させ、斧を振るたびに空気が唸り、周囲の視線を集める。彼女の目はいつになく真剣だった。
「これに勝てば決勝か……決勝戦では、あのクソ野郎じゃなくてリックと戦いたいもんだ。」
ラグナの独り言は、まるで自分自身に対する誓いのようだった。闘技場の入り口が開き、相手が現れる。今回の対戦相手は、全身を鎧で固めた重厚な騎士、カルロス。鉄の如き肉体と巨大な盾を操る、まさに“動く城”とも言える戦士だった。
「ラグナ、貴様の斧と私の盾……どちらが上か、ここで決まるのだな。では……参る!」
開始の合図とともに、ラグナは一気に距離を詰め、勢いよく斧を振り下ろす。その一撃は、まさに地を割らんとするほどの力強さだった。しかし――
ガンッ!
重く、鋭い音が響く。カルロスの盾が、ラグナの斧を完璧に受け流したのだった。
「な、なんだと! アタシの斧が盾で防がれるなんて……」
ラグナが驚きに目を見開く中、カルロスは淡々と語った。
「受け止めることだけが防御ではない。時には水のように受け流すことも必要なのだ。貴様のような剛力の場合は、特にな。」
その言葉にラグナは歯噛みした。だが、怯む暇はない。すぐさま斧を構え直し、今度は横薙ぎ、斜め斬りと連続攻撃を仕掛ける。
「喰らえっ!」
風を切る音が幾重にも重なり、観客席からもどよめきが起きた。だがカルロスは、まるでその全てを予見していたかのように盾を操作し、攻撃をいなしていく。その滑らかな動きは、分厚い鎧を着ているとは思えないほどだった。
「くそっ! このままじゃ持久戦に持ち込まれる!」
焦燥がラグナの背筋を走った。カルロスは盾を振り上げ、まるで大鎚のように打ち下ろしてくる。回避が遅れれば、一撃で終わる。
「ラグナ、貴様の力は認めよう。しかし、それだけでは私には勝てんぞ。」
言葉通り、力だけでは突破できない壁がそこにはあった。
だが、ラグナの目が静かに燃える。何かを決意したように、彼女は斧を軽く持ち替えた。
(力だけじゃダメ……なら、スピードで勝負だ!)
身を低く構え、カルロスの盾の死角――背後へと回り込もうとする。カルロスもそれに気づき体をひねるが、さすがに鈍い。
「今だッ!!」
斧の柄の部分を用いて、盾の縁を強打する。金属と金属がぶつかり合う甲高い音が鳴り響き、カルロスの体がわずかによろめく。
「くっ……!」
バランスを崩した瞬間を見逃さず、ラグナは全身の力を籠めて渾身の一撃を振り下ろす。その刃は空気を切り裂き、カルロスの盾を弾き飛ばした。
「勝負ありだッ!」
重々しい音とともにカルロスが地に膝をつき、観客席から大きな歓声が湧き上がる。
「ラグナ……貴様の勝ちだ。見事な戦いだった。」
騎士としての誇りを失わず、カルロスは潔く敗北を認めた。ラグナは肩で息をしながらも、勝利の余韻に浸ることなく手を差し伸べた。
「ああ、お前もすげえ防御だったぜ。おかげで手応えバッチリだ。次は……決勝戦だな!」
彼女の視線はすでに未来を見据えていた。リック、メアリー、観客たちが一斉に歓声を上げ、ラグナの勝利を称えた。
「ラグナ、おめでとう! 次は決勝戦ね!」
メアリーは笑顔で駆け寄り、ラグナにタオルを手渡した。
「おう、メアリー。決勝では全力でいくからな。リック……お前、ロイドなんかに負けんなよ?次はアタシを越えてみせな!」
ラグナは力強く笑いながら言い放ち、リックに視線を送った。彼もまた、真剣な表情で頷く。
「うん……僕も、全力で挑むよ。」
こうしてラグナは決勝への切符を手に入れた。闘技場は熱気に包まれ、彼女とリックの戦いに向けて、ますます期待が高まっていく。仲間と共に、試練と絆の冒険は続いていくのだった。
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