第4話 炒飯

 男ニ人で炒飯を食べながら、慶三は息子に話しかける。


「学くんはどうや?元気にしとるか?」 


学とは、剛の5年来の恋人の名前である。家に挨拶に来たことがあったので、慶三も知っている仲であった。 


「元気や……あ、でも学がやってた会社は潰れてしもたんや。普通に就職しようかなって言うてるとこ」


剛は、子供時代に使っていた器とスプーンでチャーハンを一気にかき込むと、話を切りだした。


「…………というか、そんなんええねん!おとん、あの触手の生えた恐竜みたいなん、どうすんねん?」


「どうするって……飼うしかないやろ?」


「国に許可?とかいるやつやろ、分からんけど」


そう言われ、慶三は皿を見つめたまま、少しだけ考えたような顔したが、答えは変わらなかった。


「……国には言わん。信用ならんやろ。わし一人で飼っていく」 


「おとん今いくつなんや?もし、あれが恐竜なんやったら大きなるで?一人では無理やろ」


すると、慶三はスプーンをカァンッ!と音を立てながら強くテーブルに置いた。


「どうにかする!!この話は終わりや!!」


こうなってしまうと、父には何を言っても無駄な事は分かっていたので、剛はだまって食器を流しに持っていった。

 

あっ!と、剛は急に思いついたと声を上げる。


「せや、結局あいつらの餌はどうしたんや?」


慶三の瞳が待ってました!と輝きだす。


「それがな!虫や葉っぱは、食わんかったんや!でもわしの夜食のおにぎりを欲しそうにするから、試しにやったら、なんと食べたんや!あとは豆や!ほれ、惣菜のひじきと大豆のやつの、あれの豆を食べたわ」


先程まで機嫌を損ねていたとは思えないほど、意気揚々と説明をする父を見ながら、剛は少し考えて返した。


「…………米と豆……ほな、今日からあげるなら赤飯やな……!ははっ」


剛は冗談で赤飯と言ったが、慶三は膝を打ち、その手があったか!と言うと、母の残した料理本を開き赤飯の作り方を調べだした。剛は呆気にとられながらも、父の生き生きとした様子をみて、口元を緩める。


 母が亡くなって以来、明らかに気を落としていた父が、こんなに何かに夢中になって表情をコロコロと変えている。素直に嬉しい出来事だった。


「…………まぁ、どうにかなるか」


剛は父と恐竜の行く末を、見守ることにした。


この時の決断が、剛の未来を大きく変えるとも知らず。

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