G07「ナンバープレートが赤い」R04

ちとちゃんに感想を聞くっす!

パパが「お友だちと話してて良いよ、今日、暇だし。」って言ってくれたっす。


「こちらでコースはすべて終了となります。お楽しみいただけましたでしょうか?」


「大変美味しかったです。私史上、最高のイタリアンでした!」


真宵、心の中で小さくガッツポーズっす!


「しょー? 真宵、うち美味しいよって言ったっすよ?」


「わ! びっくりした、まよちゃんだ!」


「最初から、真宵っすよ。」


ちとちゃんが、突然、真宵の両手を包むように握ってきたっす。


「まよちゃん! 私、まよちゃんになりたい!」


「はえっ⁉」


「だって、まよちゃん、ぜーんぶかっこよかった! お客さんへの気配りも、言葉の選び方も、立ち姿も、あんなふうに笑えたら、きっと私も誰かを幸せにできると思ったの!」


え、いや、そんな興奮されると、照れるっすよ。耳が熱いっす。


「すごかった! パンツルックにベスト、あれ? ベストじゃないの?」


「これ、ベスト風のエプロンなんす、ほら。」


ストライプが入った黒のベストと、赤いエプロンが繋がってるっす。


「真宵、小柄だから特注で作ってもらったっす。」


「まよちゃん、全然小さく見えなかったよ。プロの店員さんだった!」


「ほ、惚れたっすか?」


「あ、はい。ステキだった……。」


美少女の照れてる顔、尊すぎるっす。

恥ずかしそうに視線を泳がせたあと、ふわっと笑ってくれたっす。

ちとちゃんの顔はまるで湯気が出そうだけど、真宵もたぶん同じっす。


「しょ、小学校の時からやってるっす。プロにもなるってもんすよ!」


「へー。まよちゃん、めっちゃ親孝行じゃない?」


「うーん、そう考えたことはないすけど、そうかもしれないっすね。」


「私なんて、せいぜい食事の片付けとか、自分の部屋の掃除ぐらいだから、恥ずかしいよ。」


俯いちゃったっす。

こういうところが、ほんとにちとちゃんは可愛いっす。


「いきなり、まよちゃんみたいにはなれないと思うけど、教えてくれますか?」


ぎゃー、上目遣いの美少女、破壊力がヤバいっす!


「う、うむ。教えてしんぜよう。」


「やったー! 千登世、頑張るね。」


あ。ママたちがカウンターに出てきたっす。


「ちとちゃん、ママが話をしたいらしいっす。」


「え? あ、バイトの話をしないといけないもんね……。」


「ママ、だいじょぶだよー。」


また、真恋まれんたちはママの後ろに隠れてるっすね?


「いらっしゃい、千登世さん。」


ちとちゃんが慌てて席を立ったっす。


「いつも真宵さんにお世話になってます。佐倉千登世です!」


「あらー、真宵の言う通り美少女だわ、千登世さん。」


「でしょー、いつも言ってるでしょ? パないって。」


「い、いえ、そんなとんでもないです……。」


「ほら、真恋たちも挨拶しなさい。」


ママの右後ろから真恋が、左後ろから真華まはなが顔出したっす。


「せ、瀬戸真恋です……。」


「真華……。」


うちの双子の妹、真宵には見分けが付くけど、他の人には分からないっす。

だから、真恋はハートの、真華は花のヘアピンを付けてるっす。


茉莉まつりでーす。千登世さんはお姉ちゃんの彼女さんなの?」


あ、茉莉がママの前に飛び出てきたっす。


「茉莉ー、いきなり何言い出すかな?」


「だってー、さっき、良い雰囲気だったんだもん。」


「失礼でしょ⁉」


茉莉を捕まえるっす。


「ぎゃー、まよねえ! 頭ぐりぐりしないで、痛い痛い。」


ほら、ちとちゃんも呆れて……、ないっすね?


「羨ましいぐらい、賑やかですね!」


「いいのよー、千登世さん。1人ぐらい持ってって。」


「そうだよ、まよねえ、持ってって!」


「え、良いんですか?」


「だ、ダメだと思う……」


珍しく、真恋が口を開いたっす。


「えっと、『まれん』さんと『まはな』さんだよね。どういう字を書くのかな?」


「真実の恋と、難しい方の華です……」


真華は首を縦に振るだけっすね。

2人とも、ちとちゃんより重症の人見知りっす。


「真恋さんがハート、真華さんがお花のヘアピンなんだね。2人ともロングヘアーがキレイだねー。」


「千登世さんも、キレイ……。」


「私はちょっとくせっ毛なんだー。2人はストレートでしょ? キレイ。」


ちとちゃん、ちょっとウットリしてるっす。


「ほら、ママは千登世さんとお話があるから、部屋に戻ってて。」


「はーい、千登世さーん、まったねー。」


茉莉はバイバイした。


「失礼します……。」


真恋と真華は揃ってお辞儀っす。

いつものことだけど、真華はほぼ喋らなかったっすね。


「うちの妹ズ、対照的なんすよ。」


ちとちゃん、首を傾げちゃったっす。


「あ、妹の複数形か。考えちゃったよ、まよちゃん。」


「真宵も元々は人見知りだけど、真恋たちほどじゃなかったわね。茉莉は元気良すぎるのよ。」


ママ、ちょっとため息ついたっす。


「え? まよちゃん、人見知りだったんですか?」


「そうよー、ここでお手伝いを始めたころは、お客さんと全然話できなかったんだから。」


「へー、すごい意外です。」


「慣れっすよ。」


ちとちゃんにとっての剣道みたいなもんっす。

ずっとやってると、出来るようになるっすよ。


「で、千登世さん、来週からシフトに入れるかしら?」


「は、はい? そんなにすぐですか? っていうか面接とか……。」


「客商売を長くやってると、人を見抜けるようになるのよ。千登世さんは合格。」


「あ、ありがとうございます! まだ何もできませんけど、頑張ります!」


頭ペコペコしてる。ちとちゃんらしいっす。


「この間、千登世さんのお母様とご挨拶したでしょ? 親御さんもちゃんとしてらっしゃるし、見たところ礼儀作法も出来てるから。」


「ふ、ふつつかものですが!」


真面目っすよね、ハラペコにならなければ。


「フフ。すぐにゴールデンウィークになるから、忙しくなるわよ。」


「ちとちゃん、身長いくつっすか?」


「ひゃ、169センチだけど、どうして?」


「制服を用意しないとならないっすから。」


「あ、そうだよね。」


「20センチも違うっすねー、いーなー。」


「まよちゃん、いくつだっけ?」


「148っすよ。」


「うちは見ての通りでみんな小さくってねー。」


それからバイト代とかシフトに入る日を相談して、ちとちゃんの採用が決まったっす。


「あ、あの、お会計は?」


「今日はタダで良いっすよ。」


「え⁉ そんなわけにいかないよ、あんなに美味しいのをいただいたのに。」


「パパが、真宵の親友からは、もらえないって言ってるっす。だから大丈夫っす。」


「で、でもー。」


「ママはきっちり働いてくれたら安いもんだよ、って言ってるっす。」


ママの方がお金はシビアっす。


「わ、分かった。ごちそうさまでしたって、伝えておいてね。」


「了解っす!」


ちとちゃんは、入り口で頭を何度も下げて帰ったっす。

気が付くと朝から降ってた雨は止んでて、店の前の道路の水たまりが光を反射してるっす。


真宵、ずっと店を手伝ってきて、良いことも悪いこともたくさん経験したっす。

偉そうな態度のお客さんもいるし、可愛がってくれてる近所のお婆ちゃんもいるっすよ。


でも。


本日のお客様は、真宵史上、最高のゲストでした! ご来店ありがとうございました!

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