間話 ツーリング


 時は遡り、これはリリッカーのたわいもない日常の一幕。


 ***

 

「じゃじゃーん! ついにうちもバイクの免許取りました!」


「お前バイク嫌いやと思ってたわ」


「にいにのくせにうちのことなんもわかってないなー。これでやっっっと! みんなと念願のツーリングにうちも行けるで!」


「一緒にツーリングしたかったなら、言えば後ろ乗っけたったのに」


「え? 皐月、今なんて言った? バイクって後ろ乗れるん!? 横になんか変なんつけんでいいん!?」


「大型やからな」


「教習所で何習ってん」


「まーまー、きょう言葉ことはもそんな冷たく言わんといたりーや。これでつむぎも自分で運転できるからいいやんか!」


「嫌や」


「「え?」」


「うち、運転めんどくさい。後ろ乗っけて」


「あ? 運転できるんやから自分で乗れや、免許取った祝いに俺のお古やったるわ」


「にいにのお古なんか嫌や! 後ろ。後ろがいい! 乗っけて!」


「いくつやねん。ただこねるなや」


「ん」


 響がつむぎに無愛想にヘルメットを投げ渡し、自身のバイクに跨りエンジンをかけた。

 

 それを目にした言葉、皐月さつき来羅ららは、激しく視線を交差し合い、つむぎと響にバレないように口をすぼめた。


「ええん!? さすが響やわ、にいにと違って優しいわ〜。ありがとっ」


「ちゃんと掴まっとけよ」


「うん!」


 つむぎは響の後ろに跨り、腰に手を回した。

 響は恥ずかしそうにそそくさと急いでヘルメットを被る。つむぎの乗車を彼女の温もりで確認した響は、バイクを走りださせた。


 その光景を後ろから見ていた三人は再度顔を見合わせて、何か企むようにニヤニヤと顔を綻ばせバイクの後に続いた。


「どうしたん? 大丈夫、響?」


「大丈夫や、危ないから手放すなよ」


「つむぎが重くて驚いたんやろ」


「コラ! にいに!」


 インカムから聞こえた兄のヤジにつむぎは大きく身を捩り、拳をブンブンと振り回した。重心がブレたバイクは危なっかしくゆらゆらと走行する。


「おい、つむぎ! 後ろ乗ってんのに暴れるな!」


 真っ暗な夜道を四つの赤いテールランプが楽しそうに伸びていく。

 

 どこまでも、いつまでも。

 五人の旅路は続く。


 ――あの頃は、皆がそう思っていた。

 

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