二章
次の任務へ
時雨の初任務から数日後のこと。特課のオフィスで二班の会議が行われていた。相変わらず他の班はいない。課長も今は自室で休んでいるようだ。
「二人ともこれを見てくれますか」
そう言って、班長の
「これは、薔薇組の工場ですか?」
そこには先日の任務で薔薇組と戦った、工場周辺が映し出されていた。
「これが何か? 特に不審な点はないように感じます」
そう言った白南風は、先の任務以降、態度が少し柔らかくなったような気がする。
「映像を進めます」
流師は映像を早送りし、ある場面で停止させた。
「この傘は……確か初訓練のときに僕が助けた、ドレッドヘアーの人が使っていたものです!」
そこには、銘力を使えないと時雨が悩んでいたときに助けた――赤い薔薇の傘が写っていた。
特徴的な傘なので、偶然他の人だったという可能性も低い。
「そうです。少し気になりませんか」
「ヨシさんの勘ってやつ?」
「白南風君、はんちょ……」
「班長。わかっています」
(お互いやれやれって表情するなら、毎度のことやから、どっちか折れればいいのに……)
「先日から調査している銘力者についてですが、この人物を探ろうと思います」
「他に何か情報はないんですか?」
「あれから更に調べたところ、調査対象はどうやらドラッグを取り扱っている人物のようです」
「ドラッグね……」
白南風は怪訝そうな顔で呟いた。
「そして、この傘の人物の行方を調べたところ、とあるチームに所属していることが判明しました」
「チームですか?」
「はい。難波、心斎橋のクラブを拠点とする"リリッカー"という音楽チームのようです」
「ジャンルは?」
「白南風君の好きな、ヒップホップとレゲエのようです」
「白南風さん、そっち系の音楽が好きなんですか?」
「何、悪い?」
「い、いえ」
(やっぱり、まだ所々冷たいな……)
「とにかく、早くこの一件を片付けたいので、少々強引ですが、本人達に会いに行こうと思います」
「待って、この格好でですか?」
時雨たち特課のメンバーは、黒い専用スーツを着用して普段活動している。白南風にはその格好のまま出発することが気になるらしい。
「何か問題でもあるんですか?」
「はぁ、二人ともセンスなさすぎ。こんな真っ黒のスーツでクラブ行ってどうするの」
「え、クラブに行くんですか?」
「彼等の所在が分かるのは、拠点としているクラブなので」
「ビジネスマンにも見えないし、絶対に場違い。すぐ怪しまれるのが関の山。郷に入れば郷に従えよ。いいから私に任せて」
そう言うと白南風は、流師と時雨を連れ、街へと繰り出した。
***
「ヨシさんには、これとこれで。日々生くんにはこっちかな」
白南風に選んでもらった服を着て、流師と時雨は試着室から出てきた。
「本当にこれであってますか……」
白南風に渡された服を着た時雨は、普段着慣れない格好で居心地が悪かった。ダボっとしたジーンズに、白のロンTの上に、オーバーサイズの半袖シャツ。そして、ツバが真っ直ぐのキャップを後ろ向きに被っていた。
「似合ってるかはさておき、浮くことはない」
興味がなさそうに、少し冷たく白南風は言い放った。
「こういった服は初めて着ましたが、案外悪くありませんね」
何故かにこやかな流師は、カーキー色のカーゴパンツに、タンクトップの上から黒い革ジャンを着ていた。目の錯覚だろうか、彼の周りに煌びやかなランウェイが見える。
(この人は何着ても似合うやんけ、これが素材の違いかよ……)
「さすが、ヨシさん。イケてる」
(班長と俺とのリアクションに差ありすぎやろ!)
「白南風君のコーディネートのおかげです。白南風君もクールですよ」
白南風はくるりと一回転して自身のコーデを見せ、少しおどけみせた。彼女は袖のない白のクロップドトップスに黒のカーゴパンツを腰履きし、そこからブランドロゴの入ったゴムを覗かせていた。引き締まったウエストがより一層彼女を華やかにみせた。
「日々生くん」
「はいっ!」
「あまりジロジロ見てると、吹き飛ばすよ?」
「はい……」
「普段は真面目なのに、時雨君も男の子ですね」
どうやら、時雨は無意識に鼻の下を伸ばしていたようだ。流師の楽しそうな笑顔が余計に胸に突き刺さる。居心地の悪さが余計に増した。
「それでは、"リリッカー"がいるクラブへ向かいましょう」
「「はい」」
そうして、準備を済ませた三人は目的地へと向かった。夜も暗さを増し、クラブが賑わう頃合になっていた。
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