End If:「無尽(Recursion)」

無表情だったツナギがトーカの叫びを聞いて見開かれた。

頭上の光輪が充血するように赤く染まり、バチバチ火花を散らした。


「あれ?変だな……いうことを聞かない?」

レイヤは離れたところで首をかしげる。


「おかしな雲行きだな……」

シヴの勘は警鐘を鳴らしていた。


《【SHIV】。下がりたまえ》

突如、頭にロジエルの声が響いた。だが声色は別人。


シヴは即座に飛び下がる。ツナギの手刀が空を切り裂き、風鳴りが尋常ではない速度を告げる。


《「ビッグボスか、なんだよ今更」》

ロジエルを通して不満を伝える。


《距離を取ってハンドガンで攻撃しろ》


「ラジャー」


腰からハンドガンを抜き、パンパンと二発。

ツナギは避けもせずに被弾した。脚が止まる。

さらに頭部と腹部に撃ち込み、致命傷を与える――はずだった。


ぎゅるりと傷口がねじれ、元通りに復元される。


《完全なる不死か……実に興味深い》

通話の先で分析する声が漏れる。


《【SHIV】。必ず【UNDYING】を生け捕りにしたまえ》


ツナギが迫る。シヴは足元に手榴弾を転がし、爆煙を盾に退避した。


「勝手なこと言ってくれるぜ……どうすんだよこれ」

装備は心許ない。


《既に支援物資を送っている。有効活用して欲しい》


砂漠の空をドローンが駆け抜け、コンテナを投下して飛び去る。

展開したのはリボルバーランチャー。


「ちょっと、どうなってるの?」

状況の呑み込めないドミナが怒鳴る。


「……すまねぇな、取り込み中だ」

シヴは淡々と答え、弾を撃ち込む。


粘着性の緑の液体がツナギを絡め取り、暴れても離さない。


「何なのよ、その武器……説明しなさい!」

ドミナは苛立ち、支配の力を走らせる。


「悪いなお嬢。その命令には従えねぇ」

シヴは冷たく言い放った。


地平線から武装車両が現れる。銃座に機関銃を備えた重装甲の車列。


庭師ガーデナー?!光輪の会の直属部隊……」

「負けはしないけど……相手にしてたら時間ばっかり取られるんだよね」

レイヤは舌打ちし、憎々しげに吐き捨てる。


強化外骨格に身を包んだ兵士たちが整然と降り、ツナギを取り囲む。


「最悪。あいつら、ほんっとしつこい!」

一人一人が歴戦の傭兵であり、その重武装と組織だった連携は、レイヤすら辟易とする“粘り強さ”を持っている。


「お前らなんか相手にしてられるか!」

レイヤは吐き捨て、そそくさとその場を後にした。


「シヴ……あんた……?」

ドミナの声は震えていた。


「この任務を果たせば……娘が返ってくるかもしれない。

だから従うしかねぇんだ。お嬢の支配ごっことは違う、本物の“縛り”ってやつだ」

首元の叛骨のネックレスを握りしめる。


そこにあるのはドミナの知らない、冷たい兵士の顔だった。


回収部隊はツナギを大型輸送機へと積み込み、砂漠を離れていった。



***


――数週間後。


一機の大型輸送機が雲間を割く。

無数の影が降り注ぎ、大地に叩きつけられる。

肉体が砕け、弾け飛ぶ。


――だが、すぐに巻き戻すように再生し、立ち上がる。

クローニングされた同じ顔、同じ無表情。


「はは……これは、勝ちだね。負ける要素がない」

観測室でオルハ博士は勝利を確信し、喜びに震えていた。


「呪いか、奇跡か……いや、これは人類が生み出した新しい“現象”だ」


誰かを守るために死ぬと誓った祈りは、目的を失って永遠の不死へと呪いに転じた。


英雄の最後の祈りすら踏みにじって、沈黙の軍勢は、ただ殲滅のために進軍を始めた。

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