#2 ライブ会場・楽屋 Part1

「メイクありがとうございますー。ではまた後で」


〈効果音〉ドアを開ける音


〈効果音〉数人の足音が遠ざかって行く


〈効果音〉ドアを閉める音


「はぁあ……ようやく落ち着いたね。本番前の準備は一通り終わったから、あとは本番を待つだけだね。……さっきまで騒がしかったこの楽屋も、人がいなくなって、なんだか静かになったね」


〈演技〉なにやら慌てるように


「え……ちょ、ちょっと待って、マネージャー。なんで君まで出て行こうとするの?」


〈演技〉なにやら戸惑うように


「本番前の大事な時間だろうから、一人にしてあげようと思って……って、それは嬉しいけど……僕はもう少し一緒にいたいよ……せっかく二人きりになれたんだし……な、なんでもないよっ。あ、そうだ。さっきレーベルの社長が挨拶に来たでしょ。その時に差し入れのドーナッツ貰ったんだ。まだ本番まで時間あるし、一緒に食べよ」


〈演技〉おどけるように


「え?本番前に一人で集中しなくていいのかって?……わかってないなぁマネージャー。僕は一人でいるより、君といるほうがリラックスできるし、集中できるんだよ。知らなかった? そういう事だから、僕を一人にしてあげようなんて、気にしなくて大丈夫。それにほら、社長に貰ったドーナッツ、凄く美味しそうだよ。なんでも最近日本に進出したばかりの有名店なんだって。いつも行列ができてて、なかなか買えないんだよ。社長、僕のためにわざわざ並んで買ってくれたのかな」


〈演技〉甘えるように


「ね、一緒に食べよ。いい?オーケー、決まりだね。……じゃあ、何か飲み物が欲しいかな……そうだ、いつもマネージャーが色々してくれているから、たまには僕がコーヒーを淹れてあげるよ。……本番前だから大人しくしてろ?大丈夫だよ気にしないで。僕は動いている方が落ち着くんだ。君はそこで座ってて。いい?僕がやるんだから、君は動いちゃダメだよ」


〈効果音〉足音。部屋の隅まで少し歩く感じ

〈演技〉少し離れた距離感の声で


「この楽屋、ミニキッチンが付いてるなんて、贅沢だね。えと、瞬間電子湯沸かし器ケトルは……と、あった、これだね。これに、差し入れのミネラルウオーターをを注いで……と」


〈効果音〉ペットボトルの蓋を開ける音


〈効果音〉瞬間電子湯沸かし器ケトルをセットして、スイッチを入れる音


「ねえ知ってる?このケトル凄いんだよ。最新型でね、10秒くらいですぐお湯が沸かせるの。なんでそんな事知ってるかって?最近、家具とか、家電とか調べてるんだー。あと料理も覚えようと思ってるんだよ」


〈効果音〉お湯が沸く音


「お湯沸いたから、コーヒーを淹れるね。あ、動かないで!そこで見てて。……そりゃ、君の淹れたコーヒーが美味いって事はよく知ってるけど……僕だって、コーヒーくらい一人で入れられるんだから。えーっと、たしかコーヒー豆をミルに入れて……」


〈効果音〉ざらざらとミルの中にコーヒー豆を入れる音


「たしか、このハンドルを回すんだよね……ちょっと、動いちゃダメ。僕に任せて」


〈効果音〉手動でコーヒーミルのハンドルを回し、ガリガリと豆が削れる音


「うん。いい感じ。ほーら、僕だってできるでしょ……うわ……いい香り、コーヒー豆の香りって……落ち着くね……」


〈効果音〉がさごそと机の上を探しコーヒーフィルターを手にし、開ける音。


「これ、何ていうの?コーヒー……ドリッパー?……へー。そんな名前なんだ。これをコップの上に置いて、これ……は、コーヒーフィルターって言うんだよね。それくらい僕だって知ってるもんねー。フィルターをドリッパーの中に入れて、その中に、挽いたコーヒー豆をいれて……と。あ、合ってるよね。合ってる?よかったぁ」


〈効果音〉セットしたコーヒーフィルターの中に挽いたコーヒー豆を入れる音


「あとは、沸いたお湯を注ぐだけだね……え?回しながら注ぐの?少し注いだら数秒蒸らして……あー、わかんないからいいや適当で。……出たな雑なトコって……いいんだよもう。君が淹れたコーヒーが美味いのは知ってるけど、今回は僕が淹れるんだから、僕の好きなようにするから……僕が淹れてコーヒーを淹れてあげるなんて、特別なんだからね」


〈効果音〉コポコポとお湯を注ぐ音


「あ、いい香り。手で入れたコーヒーって、インスタントとは、全然香りが違って良いね。なんか、気持ちが落ち着くよ。君はいつも、僕にコーヒーを淹れてくれる時に、この香りを感じていたんだね……」


「うん、いい感じ。ちょっと待ってて」


〈効果音〉近づいてくる足音。テーブルの上にマグカップとセラミックソーサーを置く音

〈演技〉テーブルの向かいの距離感の声で


「君の分のコーヒーとドーナッツ、僕の分のコーヒーはこれから淹れるから、先に食べてて……遠慮しないで、僕を待たなくていいから。ほらほら、せっかく僕が淹れたコーヒーが冷めちゃうのは勿体無いでしょ。じゃあ僕は自分の分を淹れに行くからね」


〈効果音〉足音。部屋の隅まで少し歩く

〈演技〉再び少し離れた距離感の声で



「ここで見てるから、食べて食べて」


〈効果音〉コポコポとお湯を注ぐ音


「……ほんと、美味しそうに食べるよね。見てるこっちまで幸せな気持ちになってくるよ……なんか君が食べてるのを見てたら僕も早く食べたくなってきちゃった。……僕もコーヒー淹れ終わったからそっち行くね」


〈効果音〉足音。歩いて近くにくる足音。

テーブルの上にマグカップとセラミックソーサーを置く音

〈演技〉隣で囁くように


「じゃ、僕もたべよっと……ん?何?……距離感、近くないかって?もちろん、わざと近くに来たにきまってるじゃん。だって、さっきは君が美味しそうに食べてるのを見せつけられたからね、今度は僕の番。隣で僕が美味しそうに食べてるところを見せつけてやるために、わざわざ隣にきたんだよ。いっただきまーす」


〈効果音〉ドーナッツを一口食べる


「おいしー。なにこのドーナッツ、ふわっふわだね……それにこの上に乗ってるトッピングもやばい……」


〈効果音〉ドーナッツをもぐもぐと食べる


「ああ、美味しすぎる……しあわせー……ん?食レポ下手すぎ?そんなんじゃ食レポの仕事こないぞって……うるさいなぁ……いいもん。僕は別にそんな仕事こなくても。ぼくのこういう姿はは、大事な人にだけ見せればいいんだもん。大事な人って誰って?……あ、コーヒーも飲も」


〈効果音〉コーヒーを飲む


「んー、コーヒーもおいしー。苦いけどドーナッツの甘いのと合わさってちょうどいいー……あー、お腹いっぱい……しあわせー」

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