第2話 抱き枕

「爺、ソウコのスキル鑑定を頼む」

「ふん、ソウコとやら。真理をひとつ寄越せ。鑑定料だ」


 えっ、真理?

 物理法則で良いのかな?

 とりあえず、簡単なのにしてみよう。

 物質の三態と、物質の燃焼のどっちにしようかな?


「燃焼の3要素は可燃性物質、酸素、発火点以上の温度です」

「おお、火種と燃える物のふたつしか知らなんだ。詳しく話せ」


「可燃性物質は燃える物です。酸素が必要なのは簡単に説明できます。風を送ると激しく燃えるでしょう。空気の中に酸素があるからです。ロウソクにコップを被せると消えます。中の酸素を消費し尽くすからです。例外として火薬みたいに酸素を出しながら燃える物もあります。発火点以上の温度で火が点くので、火種である必要はありません。熱くすれば、物資によってちがうのですが、ある温度を超えると燃えます」

「わしはこの娘が気に入ったぞい。養女にしたいぐらいだ」


「私も同様。能力の証明十分。問題は皆無」

「最初に気に入ったのはわたくしですわ。だって魂の輝きが、違うのですもの」


 聖女のメローネさんは魂の輝きを見てるのね。

 さすが聖女。

 魂判別能力があるのね。


 私は盗みはおそろか、落とし物も交番に届けて来た。

 物を故意に壊したこともないし、確かに悪いことはしてない。

 嘘もつかない。

 約束も破ったことがない。


 お年寄りに親切にすることも多かった気がする。

 だって凄く感謝してくれるし、私を嫌悪の目で見ない。

 お年寄りは好き。

 嫌悪の呪いはお年寄りには効かなかったのかな。

 今は別にそれは関係ないけど。

 それで魂が輝いているのかな。


「ソウコが人気で、上手くやれそうで良かったよ。連携の悪いパーティは死ぬからな。爺、早く鑑定しろ」


 私、ここの仕事を上手くやれそう。

 みんな良い人で涙が出そう。


「すまん、すぐにやる。むむむ……。出たぞ。無制約収納スキルじゃな。制約がないってことは限界がないってことじゃな。何でもできるはずじゃ」

「じゃあ、ソウコは荷物持ちだな。これで戦術の幅が広がる」

「ですわね。土砂を収納しておいて、押し潰すなど、かなり使い勝手は良さそうですわ」

「時間停止も可能。生き物収納も。魔道具でも不可能。絶大な羨望」

「後衛の切り札かのう。土砂放出は後始末が大変じゃからな」


「ソウコの役割や戦い方は明日から試す。明日は出発で、早い。みんな、寝るぞ」


 あの私の分のベッドがないんだけど。


「ソウコさん、わたくしと一緒に寝ませんか?」


 メローネさんに誘われた。


「良いの?」

「ええ、喜んで」


 メローネさんと一緒のベッドで寝る。

 寝てるとどうしても体が当たってしまう。

 メローネさんのあれが巨大で、絶望感しかない。

 でも女友達と、一緒のベッドで寝たなんて初めて。

 だから、嬉しくて、嬉しくて、もう泣きそう。


 女神様、ありがとうございます。

 想子そうこは幸せにやってます。


 夜中に起きると、ティガーさんが何度も寝返りを打っている。

 ため息も聞こえる。


 眠れないのかな。

 そっと近寄ってみると、ティガーさんに引き寄せられて、ベッドの中に。

 凄い力で、抵抗できない。


 ティガーさんの片手には短剣。

 私の喉元に刃がピタリと押し当てられた。

 声を出したいけど、恐怖で声が出ない。


「ぐー……」


 ティガーさんから寝息が聞こえた。

 えっ、寝ぼけてたの。

 ため息も寝言?


 短剣をなんとかもぎ取って、床に投げる。

 それにしても放してくれそうにない。

 起こしたいけど、凄く気持ちよく寝てる。

 何だか起こすのは可哀想。


 月灯りに照らされたティガーさんの寝顔を見て、時が止まった。

 世界さえ止まった気がする。


 心を打ち抜かれた?

 いいえ、完膚泣きまでに打ち抜かれて、もう粉々。

 正常な思考なんて、できない。

 脳がピンク色に染まってる。

 初めての恋。

 これが恋。


 「想子そうこだめよ。好きになっても結ばれない」私の心がそう忠告する。

 そうね、私はドプスだし。

 資格なんてないに決まってる。


 でもでも、ドワーフの女性と変わりないって言ってた。

 「ドワーフは人間じゃないでしょ」と内なる声。


 ドワーフと人間のカップルもいるかも。

 「きっと失恋してご飯も食べられなくなるわよ。諦めるのが利口」と内なる声。


 ああ、なんで否定するのよ。

 「ティガーさんほどのイケメンならもう恋人はいるかも」と内なる声。


 恋人いますか?なんて聞けない。

 それを言ったら好きですって言っているのも同じ。

 「告白できないのだったら、結果もなにもない」と内なる声。


 片思いでも良いじゃない。

 好きにさせて。


「あらあら、熟睡しちゃって。幸せそうな顔で寝てること」


 メローネさんの声。

 見られた。

 恥ずかしい。


「あの、寝ぼけていたんだと思います」

「あの勇者がまさかですわ。不眠症で眠れないのですよ。特にお城では眠るはずなどありませんわ」


「どう見ても、爆睡してると思うんですけど」

「やっぱり魂が綺麗な人は本能的に分かるのですね。腐っても勇者ですから。もう、安心しきった顔。悔しいですわ。あーあ、ソウコさんを取られてしまいましたわ。勇者には慰謝料を要求したい気分ですわね」


「静かに剥がして欲しいんですけど」

「たぶん、無理ですわ。力比べで勇者に勝てる者などおりません」


 えー、朝までこれなの。

 嬉しいような、申し訳ないような、恥ずかしいような、朝が怖いような。

 男性が言うところのラッキースケベだと思って、受け入れるしかなさそう。


 もんもんとしたけど、いつの間にかに眠ってた。

 揺さぶられて起こされる。

 すっかり明るくなっている。


「あー、すまん。刺客だと思ったんだよ。しかし、熟睡してしまうとは。こんなことは初めてだ」

「私こそすみません。ひと声掛けて、近づくべきでした」


「こんなにぐっすり寝たのは勇者になってから初めてだ」

「勇者のプレッシャーですか?」


「色々とあるんだよ。君は知らなくて良い」


 ティガーさんの不眠の原因を知りたい気がする。

 不眠を治してあげたい。

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