第11話

第11章:恋と炎のリズム ― 大阪編


ツアー5日目――大阪フェスティバルホール。

ビル群の合間からのぞく夕焼けが、ホールのガラスに朱色のグラデーションを描いていた。大阪の熱気と人情あふれる街並みは、これまでとは違う鼓動を二人に与えている。


1. 大阪仕様のステージ演出


控室で彩花(25歳)は着物をイメージした和風ドレスに袖を通していた。裾には大阪名物・提灯と紙吹雪を模した模様があしらわれ、和太鼓と打ち上げ花火をテーマにした演出パートを象徴している。


「大和、今日は“炎の鼓動”パフォーマンスがあるから、鼓笛隊のリハ見てほしい」

俺・結城大和(25歳)は音響卓から顔を上げ、手元のタブレットに目を落とす。


「了解。打ち上げ花火の音素材と和太鼓の生演奏をシンクロさせるんだよな?」

「うん。鼓笛隊は地元の中学生たちを起用してるの。みんな緊張してるから、あなたからもひと言お願い」


俺はうなずき、袖口へと向かった。ステージ袖では、地元中学生の鼓笛隊10名が和太鼓を前に、汗をかきながら並んでいる。緊張と誇りが混じった表情だ。


2. 子どもたちとの絆


「みんな、今日はよろしくな!」

俺はマイクなしの小声ながらも、リズムの拍を合わせるように手を叩いた。中学生たちは最初こそ硬かったが、次第に息を合わせ、元気に頷いてくれた。


彩花も袖から顔を出し、笑顔で「一緒に最高の音を作ろうね!」と声をかける。子どもたちの目が輝き、大きく手を振った。


3. 非日常のトラブル


リハーサル開始――

和太鼓の低い響きと、事前に録音した花火の爆ぜる音が交互に鳴り響き、ステージ上には紅白の提灯と炎型LEDが点灯。しかし、演出点検中盤、LEDの制御ユニットがエラーを起こし、炎の演出がすべて消えてしまった。


「大和! LEDが落ちた!」

舞台監督の声に、俺はすばやく機材スペースへ駆け込む。ユニット背面には熱を持った配線束があり、過熱で自動シャットダウンしていた。


「やばい……このままじゃ、本番で炎が使えない!」

俺は冷静に状況を把握し、代替案を探す。近くの部屋に予備の投光器があるはずだ。すぐさま技術スタッフに指示を出し、LEDユニットをバイパスして投光器で代用、その上で赤と橙のジェルフィルターを組み合わせ、炎らしい光を演出するプランを立てた。


4. 本番直前の合図


本番直前、ステージ袖の空気は張りつめていた。彩花は化粧を確認し、俺は投光器の角度を微調整する。


「大和、ありがとう……投光器でも十分熱い感じ出てる」

彩花が小声で言い、握った手を俺に向ける。俺は力強く親指を立てた。


5. “恋と炎のリズム”開幕


照明が落ち、和太鼓の重厚なリズムがホールに響き渡る。中学生鼓笛隊も息を合わせ、ステージ前方で静かに構える。次の瞬間、投光器が一斉に点灯し、炎のような揺らめきの中で彩花が紅いドレスで登場した。


「せーの!」

彼女の合図で鼓笛隊が太鼓を打ち鳴らし、ステージ袖で俺はマイクなしでリズムを取り始める。鼓動が会場全体に伝播し、観客席からは拍手と歓声が湧き上がった。


6. サプライズゲスト


曲の中盤――

和太鼓のフィルインに続き、ステージ後方から見覚えのあるシルエットが現れた。かつて学園祭で音響担当をしていた大学時代の先輩・明石玲奈(24歳)だ。現在はプロの和太鼓奏者として活動している彼女が、一人で大太鼓を抱え、力強い一撃を放つ。


ステージ上に轟音が響き、観客は驚きと歓喜に包まれる。玲奈は舞台袖で俺と目が合うと、にっこり笑い、小さく会釈した。


7. クライマックス――二人のリズム


サビのリフレインが迫る中、彩花と玲奈、鼓笛隊、そして俺がステージ前方に集結する。和太鼓の強烈なビートに、彩花の歌とチーム全員の掛け声が重なり合い、ホールは熱狂の渦に飲み込まれた。


ラスト一打――

玲奈が放った大太鼓の一撃を合図に、投光器の光は真紅から金色へ変化し、数百枚の紙吹雪が舞う。「恋と炎のリズム」は、観客の心に焼きつく演出となった。


8. 終演後の絆


バックステージに戻ると、鼓笛隊の中学生たちが目を輝かせていた。


「大太鼓、すごかったです!」

「彩花さん、かっこよかった!」


玲奈も隣で微笑みながら、「大和、いい仕事だったよ」と声をかけてくれた。


彩花は俺の胸に飛び込むように抱きつき、小声でつぶやいた。

「大和、最高の演出をありがとう。今日は忘れられない夜になった」

「こちらこそ、君の歌とチームワークに感動したよ」


9. 新たな挑戦へ


大阪の夜景が窓の外に広がる中、俺と彩花、そして玲奈はフェスティバルホールの舞台裏で固く手を握り合った。鼓笛隊やスタッフたちも拍手で見送る。


――次回、第12章「白銀のステージ ― 札幌編」、極寒の北国で二人が挑む、凍える試練と新たなロマンスをお届けします。

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