第三十一装 『日常と新能力』
次の日の朝────
時刻は8時30分、いつものように左腕の目覚ましで起きたコハクはゆっくりと体を起こす。
その身には先日のデートで買った快適に過ごせると言われるパジャマを着けており、いつもの疲労が少し軽減されていると感じれる。
流石相棒、センスが光る…………
「ふぁ~……なんかまだ眠たいのう。なんでじゃろ……」
「そりゃもちろん、ハリウッドもビックリの救出劇したからでしょ。」
納得がいったようで再び眠りにつくアルマを往復ビンタで起こすのだった。
『コト』
机に置かれたタッパー、中には先日作り置きしていたチキン南蛮に自家製タルタルがぎっしりと詰まっていた。
フレッシュなキャベツの千切りに塩をぱらぱらとかけ、ほかほかの『古米』をこれでもかとごはん茶碗によそう。
なんとこの料理、うちの左腕様が手作りしたのだが…………まあその話はまた後ほど話そう。
「しっかし美味そうな飯だこりゃ……カロリーちょっと高そうだけど…………」
「まあええじゃろ、どうせ今日も『八時間コース』じゃしこんぐらい喰っとかんと! それともなんじゃ、また前みたいに気絶したいかの?」
「あのなぁ……あの時はすんごくお腹空いてたの!食への思いを高めてたの!」
ご機嫌な会話で朝から楽しい気分になる。アルマが来てから二週間ちょい、俺の生活は本当に明るく輝いていた。
前までは気にしなかった部屋の散らかりも二人で掃除したり、一緒にゲームを楽しんだり。
何より一番の変化は、いつの間にか見なくなっていたテレビの視聴だ。
「本日のヒョーゴのニュースです。まずはこれから。
先日三㋨宮センター街で発生した男二人の脅迫事案、突如現れたのは…………石仮面のヒーロー?」
「ゴボッ!」
早速先日の一件がニュースに取り上げられていた。まああの後あんなことしたから、仕方ないっちゃ仕方ないか……
キャスターは俺が突如現れたこと、ただの一般人であったこと、そしてあっという間に男たちを倒したことを丁寧に解説した。こうしてみるとかなりスーパーヒーローみたいだ、悪くない気分である。
「……で女性を無事救出しました。が、その後通報を受けた警察が事件現場に着くと…………なんということでしょう。」
パンっとあの男たちの写真が画面に映し出される。
それも、パンツ一丁の姿で……
アルマはニヤニヤと笑いながらチキンの皮をむしゃむしゃと頬張っていた。
「オマエさぁ、やっぱやめた方が良かったって絶対…………」
「いいやあれが正しい!おなごに手を出す輩は、断固として許さんぞワシは!」
女性絶対守るマンにいつの間にか就任していたアルマはあの後激昂、気絶していた二人にかぶりつき着ていた服をほとんど吸収してしまったのだ!
おかげで俺に好意を抱きつつあった女性は絶叫、110番に通報だけさせて急いでその場を立ち去ったのだ。
その後その場に来た警察官は唖然、壁にパンツ姿の男たちがもたれかかっていたのだから。
「この一件を通してヒョーゴ警察は『追い剥ぎはよろしくないが、実に見事。』とコメント、ファイブロ社も同意見ということで……石仮面のヒーローは、変態かそれとも英雄なのか。このコメントで締めさせていただきます。」
俺はピッとテレビを消して、いそいそと着替えに入るのだった…………
時刻は巡り9時19分、家を出た二人はまたいつものようにゆったり歩きながら獄門ダンジョンへと向かう。
今日も今日とて探索日和、成長への道はまだまだ果てしない道のりなのだ。
コハクはその軽装ながら胸いっぱいの自信と未来への希望を抱きグルーヴに乗りながら街路を歩いていた。
「ふんふ〜ん♪今日もバチこり魔石集めて〜お金稼ぎ〜♪」
「随分と汚い歌詞じゃな……」
「いいだろアルマ、働いた分だけ金が入る。こんだけいい仕事がどこにあんだよ?」
確かにと合点がいく。
昨日のように上手く助けることが出来たのは日頃の労働のおかげであった。魔物と戦い肉体の使い方を覚え、会心の攻撃を浴びせる。彼が自分に頼るだけでなく、自ら『経験』し熟練度を上げている証拠であった。
だが、その分。
「イタタ……げ、痣になってる……」
「ああ、前に受けたゴブリンの傷か。まだ治っておらんかったか。」
その道のりは始まったばかり、肉体活性で治癒力が上がっても器はタダの一般人。まだ攻撃を耐えきる強度まで備わっていなかった。
(コハクはがむしゃらに頑張るからのう……ワシが支えてやらねばボロボロになってしまう! せっかくじゃ、アレを魅せてやろう…………)
キラッと目が光るとアルマは、コハクに話しかける。
「なあコハク、お主……『防具』は欲しくないかのう?」
「防具…………え、買ってくれるの!?マジで!?」
「いやぁ、買うも何も……もう持っておろう?」
アルマの不思議な言葉に俺は首を傾げはてなマークを浮かべる。
やはり日頃の疲れで*こっち*の方がイカれてしまったのだろうか?
しかしその言葉をコハクは、間も無く体験することとなる。
「
アルマは腹の底から出てきた勇ましい声でそう呟く。
すると…………
『ガコガコガコガコ!』
「!?」
突如左腕は石装を纏い始め全身をくまなく覆って行く。
肩から胸、背中といき腰から下へとナノテクノロジーのように体を武装する。力を付けたアルマは、いつの間にか全身をカバーできるほど自身を進化させていたようだ。
昨日纏っていた魔力よりも、一段階強化された濃い魔力に当てられ気づけば体が軽くなっていた。
「お、おいアルマ……これって!」
「昨日喰らった覆面たちの装備があったじゃろ、あれのおかげで本来の能力が復活したらしいんじゃ! お主にサプライズで見せてやろうと思っての!」
コハクは目をキラキラとさせ涙ぐみながら自らの変身をその身で感じ取る。
幼い頃から見ていたヒーロー映画、その中でも特に好きだったあの鉄の男が!ついに自分の体で再現できるのだ、これほど喜ばしいことはないだろう!
石の武装はやがて動きを止めると、収縮し始めコハクの体にフィットするように作り変えられていく。
まるで中世の冒険者のように、足や腕にコンパクトなガードが付き防御力が向上。肩や腰にも補助用のサポーターが接続された。
「さらに〜あやつらの布を使えば〜?」
バカな覆面ズ、ご律儀に革の装備まで着込んでいたらしく左腕から大きな一枚のレザーが姿を表す。
体に巻きつくとカーゴパンツやシャツと融合、より強固により動きやすく適合する。アルマの魔力はあらゆる素材を融合させ、より優れたものにするらしい。
繊維と繊維が溶け合いピシッとシワが伸びる。
『パシッ、ファラファラ……ジャキン!』
革の最後の一っ片まで消え光が腕の中に戻り、武装が完全に展開した。
歩きながら変身していたコハクは驚愕、完全に新調された新たなる装備に歓喜の笑みを浮かべる。
「す……スゲェ…………」
「どうじゃ、これが武装王アルマの力! ダガーバックルに革のブーツ、
コハクはアルマに礼をして、胸を張ってドシドシ歩く。
会う人逢う人に好奇の目で見られて迷宮へと向かう、その姿は完全に思い描いていた姿。高校を卒業してなんの活力もなかった男が、ついにここまでこれたのだ。
(やってやるさ、これまでの俺と今の俺と。未来のオレに懸けて!)
今も尚強くなりつつある夏の熱波は、まるで青年の心のように熱く強く世を包み込むのであった。
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