第二十一装 『スーパーウルトラマキシマムパワーバトル』

『ドゴォォォォオォォォォォォォ!!!』

「んな!?」


突如俺の前に現れた緑色の屈強魔物、オーク。

恐ろしい一撃を炸裂させその衝撃で3mほどの水柱を発生させアルマの触手ごと後ろに吹き飛ばす!



バシャバシャと音を立てコハクは浅瀬に背中からダイブ、全身ビショビショになってその爆発の余白を感じていた。



「嘘……だろ。あの人は……あの人はヤられたのか!??」


目の前に広がる霧と水に滲み出る血の跡にザァっと背筋が凍る。目に前で人が死んだ、しかも自分の手の届く範囲で。


助けられなかった事実がコハクの心にグサリと刺さる。



「なーにボサッとしとるんじゃ、コハク。先を越されてしもうただけじゃ!!!よく見ろあの霧の中を!」


そういい徐々に静まる霧の幕の中、突き出された血塗れの腕が見える。

オークはフゥっと息を吐きその姿勢を微動だにしない、まるで武人の佇まい。


そしてその奥。

ポタッポタッと血が滴り落ちる音と共に殺されたと思っていたはずの男は、脇腹を抑え誰かに抱えられていた。



(腰に携えた剣、自信に満ちた眼差し、そして…………)



「いやぁ、ギリギリセーフ…………じゃねえな。悪ィ怪我させちまって。」

「全くだ、お前の取り柄はフィジカルだろ?拳ぐらい止めてもらわないと。」


敵を前にしておしゃべりをするその根性。



「リューゼンとロウタ!?」


先ほどまでぼさっとしていた二人は、いつのまにか湖まで辿り着き魔力強化した肉体で男の腹に開くはずだった風穴をなんとか防いだのである!



「あれ、名前言ってたっけ?」「馬鹿、お前の声がデカかったんだよ!」「オメーが言うんじゃねえよ!!!」


ボコスカ小競り合いをするのを見て、ようやく緊張がほぐれる。

アルマは隠れて笑いを隠しながら、石の武装を展開していた。


オークは突き出した拳を元に戻しリューゼン、ロウタ、コハクと見定めしていく。まるで自分の相手に足るかを測っているかのように。



「フグゥ……ニンゲン。オマエら3人、全員ツヨイ。」

「しゃ……喋った?」


カタコトだがしっかりと言語を話している。喋る魔物はかなりいるらしいが実際目にするのは初めてだった。


「あれ、アンタオーク知らないの? 結構なベテランかと思ってたんだけど……」

「いやロウタ違う、この人ずっと『肉体強化』でガッチガチだ。ここにいる奴が一筋縄でいかないことぐらい、知っての行動だよ。」


なんか俺の評価が定まってきたところでオークは歯ぎしりをしながら俺たちに向かってくる。



「ダガラ、平等!平等にスル!!!」



そう言うとどこからともなく二体のオークが後ろ側に飛来し、ニヤリと笑う。

屈強な男に囲まれる若者3人、状況的には大ピンチだ。本来なら足はガクガクと震え腰を抜かし、命乞いでもするだろう。


まあ、ならの話だが。


ロウタは女と気絶した男を近くに寄せると、魔力強化と肉体強化を使いひょいっと湖の端の方へ吹っ飛ばし緊急離脱させる。



「ヒサシブリに、大量!大量!!!」「ココ、水浴ビ!ニンゲン汚れ!!!」


ボディビルダーのように鍛え練り上げられてきた肉体に持ち前の魔力をふんだんに流し込む。その姿まさに金剛力士の如く。


こちらも剣を抜き眼光を飛ばす。

3対3 気を抜けば即座に頭を潰せる敵、それぞれの力を見せるしかない。


アルマもウネウネと装甲から触手を伸ばし、臨戦体制に入る。



「それじゃあ、いくぜェェェ!!!」「暴れようかッ!」「アルマ、援護よろしく!」

「ギギャギャ!」「ミナ殺しダ!」「ンギイイイイイイ!!!」



オークとコハク達はそれぞれ全速力で走り出し相手の方へ突撃する!


まず最初に攻撃したのはロウタ、剣に魔力を込めて渾身の斬撃を放つ!



「貰ったァ!」

「ングゥ!?」


鋭い一撃はオークの動体視力を超える速度で右腕を切断、紫色の鮮血が水を染める。

オークには決して負けない、そんな意志を感じさせるような攻撃。


が、流石は魔物。すぐに止血して渾身の右ストレートを左脚にブチ込む!!!



『ゴリュウッ』


痛々しい音と共に大腿骨が折れ、後方へ殴り飛ばされた!!!



「ロウタ!?」「安心して、アイツはあんなんじゃ死なないよッ!」


ニヤリと笑うオークの集団、足に魔力を溜め爆発的な前進で間合いを詰める。このまま殴り飛ばした後で一気にケリをつけるのだろう。


リューゼンはフゥっと力を貯める。


「ちょっと熱くなりますので、下がっててください。」「熱くなる?それは一体……」


ものすごい速度で向かってくるにも関わらずリューゼンは手と手を合わせて魔力を練り上げていく。

発言通り、『熱』を発しながら。


オークはその異変に気付いたようだが、構わず速度を上げていく。もう5メートルと残っていないのに額に汗をかきながらその場にとどまるばかりだ。



「勇ましきモノよ・その身その眼差しにとくと刻め・祝福の裂光れっこう・業を知り・我がにえを歓迎せよ!」


『ギュインギュインギュイン……』


手の中にゆらゆらと赤色の光が揺れ動き高密度に圧縮されている。感情の昂りの様に激しく強くソレは周囲の空気を加熱しリューゼンの立っている場所から湯気が立ち込めている。


アルマはムムッとその異変を感じ取りコハクを二、三歩後ろに動かす。



「来るぞ……あれは間違いない、行術じゃ。」

「嘘だろ、アイツ使えるのか!?」


ついに目の前まで迫ったオーク、リューゼンは満を持してその目を開く。



「喰らえ…………『烈火』ァァァ!!!」

「ンギィ!??」


手から放たれた高密度の魔力は熱エネルギーへと変換され一気に巨大な炎となってオークを襲う。

熱く、鋭く、偉大なる炎を瞬く間に前方3メートルを完全に焼き尽くし猛威を振るう!


水が煮えたぎり地面が見え即座に乾く。

空気は熱波となり、素肌からは一気に水気が飛ぶ。


『ザァァァァ!!!』



突然現れた焔に緑のバケモノは為す術も無く全身を焼かれていく。

その炎はまるで生きているかのように体に絡みつき皮膚を溶かし肉を燻ぶらせ確実にその身を灰へ変えていく。


流石のオークもこの攻撃にはビビったのか浅い水辺に体から突っ込み火元を消そうと試みる。誰だってそうする、俺もそーする。



「ウング!ウンギィ!!!」


手に水を掬い鬱陶しい攻撃を止めるため体にバシャバシャとかける。


が、何故か掬ったはずの水はいつの間にか手の器の中から消えていた。



何度も、何度も手で集めかけようと体に近付けるがすぐに消えてしまう。



「その『火』は、消えない。お前の骨が灰となり最後の一粒が水の中に溶けるまで。」


(す……すげえ…………これが『行』、自然の力を意のままに使う能力。)



人体模型図のように筋肉が丸見えになったオークは慌てながら、その攻撃者の元へと足を運び拳を突き出す。

しかし先ほどとは違う、活力も勢いもない。素手でも受け止められそうなほどの、弱弱しいパンチ。



「安らかに眠るんだな、パワーガイ。」


剣をキッと構えると、オークの心臓に向かって突きの攻撃を繰り出す。


その鋭くもしなやかな切っ先は抵抗も無く筋肉の間を通り骨へと達し…………



『ブスリ』


鈍い音と共にを貫き破壊する。

オークはそのまま力なく倒れると火花と共に光の塵へと姿を変え、ダンジョンの元へと還っていった。



二人のオークは速度を落として停止すると、互いに顔を見合い牙をむき出しにする。それは紛れもない恐怖、そして仲間を倒されたことへの怒りの感情であった。



「よぐも……仲間ヲ!」「許サン、許サン!!!」


地団駄を踏み鳴らし悔しがるその姿は、戦いの最中だというのに滑稽でバカバカしく見える。駄々を捏ねる子供のように、情けない姿をさらしている。



(よし、後はこいつらを。一対一なら絶対いける、それに後ろにはロウタさんが控えてる。)


勝利の計算式がコハクとアルマに未来の予測図を見せる。すべて塵にして礼を言われ、ドロップアイテムを吸収し新たなスキルや魔力を得る。



「完璧だな、アルマ。」「ああ!ここからはワシらの番じゃ、このブレードで……」



そういいオークに迫るコハク、魔力を込め筋肉で爆発的移動をお見舞いさせようと屈む。

リューゼンもそれに合わせ同じポーズを取り、手の中に火を宿す。


「それじゃ、いくz……」



そう掛け声を言い放ったその時であった。



『ドボオオオオオオン!!!』



突如後ろ側に水が弾ける音が聴こえ、三人はハッと息を飲みゆっくりと振り返る。

筋骨隆々で巨漢、手には木を丁寧に削ったこん棒を持っておりが本命の相手だと悟る。


霧から一体、二体、そして三体が出てくる。目には怒りと嬉しさが宿り完全にマジのモードに入っている。



「おいおい……平等って言ったじゃねえか。」

「ああ、平等ダ。お前らは……ミンナ平等ニ殴りコロス!!!」



オークの不敵な笑みに、冷や汗が水面に波紋を生み出したのだった。

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