第十装 『ダンジョンリターンズ』
それから数十分後。
コハクとアルマはダンジョンに潜るべく再び獄門ダンジョンへと足を運んでいた。
おにぎりを奪い合い、なんとか半分に分け合いながら────
「よっしゃ今日も喰らい尽くすぞ!のうコハク、準備はええかの?」
「まだ筋肉痛が酷いけど…………やるっきゃないっしょ!」
先日の疲労は完全には取りきれていない。
ダンジョンでの疲労は死亡率を一気に跳ね上がらせるので、本来は数日のインターバルを挟む必要があるらしい。
しかしそれは『常人の考え』である。
コハクは両手で扉を開き、受付エリアへと足を踏み入れる。
何故だかわからない希望、
「おはようございまーす」
「あ、おはようございます黒鐘さ…………ん!?!?えええ!?!?」
コンピューターウイルスにかかったパソコンのように狂った声を上げて、受付嬢のスルノさんは驚く顔を見せる。まあそれも仕方ない、今まで参考書一冊に満たないほどの重量しか魔石を集めれられなかった男が。
突然8時間、生命活動が脅かされるほどの時間ダンジョンに潜り!
突如抱えきれんばかりのドロップ品を持ち帰り!
それでもなお平然とインターバルを挟まずにやってきたのだ!!!
「お身体は…………何処か痛みませんか?目は見えますか感覚はありますか???」
「そんな重症どこにもないですって!安心してくださいよ。」
「そ、そうですか…………失礼しました。」
落ちかけたメガネをクイっと元に戻しいつもの冷静さを保つスルノ。しかしパソコンを打つ手は興奮か驚きか、シェイクしっぱなしであった!実にバレバレであるッ!
「そ……それでは。『汝に災い来たることなかれ。ナナホシの加護の元に。』」
「行ってきまーす!」
俺は手を振るスルノさんに返すように左手を上げブンブンと腕を振り回しながら、ウキウキでダンジョンに入って行く。今日も一味違うぜと、覚悟を決めるように。
『ギョロ!』
「ヒィ!?」
腕に出現した赤い目と一緒に…………
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
それから2時間後────
「ギギャギャァ!!!」
「アルマ!鞭!!!」「わかっておる!!!」
左腕を青く光るスライムボディへと変え、高速鞭攻撃で魔物を攻撃するコハクとアルマ。その強力な一撃はヒュンと音を立てるとゴブリンの緑色の顔面に直撃、赤い血を吹き出しながら骨をクッキーのようにバキバキに砕いて倒した!
「よっし!上出来上出来……」
「気を抜くなコハク、次の奴が来ておるぞ!」
コハクの背後に棍棒を振り下ろすゴブリンの姿、気づいた時にはもう後ろを取られていた!
急いで振り返るとともに足を踏み込み左手を前にかざし魔力を込める。
「アルマ!硬化!!!」
「あ?……ああ!」
一瞬遅れるが直ぐに盾のように展開したスライムボディは、石の硬さを権限させカチコチの防御を生成する。ゴブリン程度の攻撃では、ビクともしない硬度だ!
棍棒はゴブリンの手から離れ遥か彼方へ飛んでいく。
コハクはそれを見るとニヤリと笑い、右手に銅剣を持つと腰の捻りを付け渾身の刺突を炸裂!
『グシッ』
「ウギィィィ…………」
しかし攻撃が甘く身体を貫いてもまだ激しい抵抗を続けるゴブリン、予想以上に高い
生命力はコハクへ必死の攻撃を向ける。
「ヤッベ!ヤッベヤッベ!!!」
「浅い攻撃じゃの!ほれ見たか!!!」
右へ!左へ!
必死に避けるコハクに、仕方ないとアルマは石のガントレットを尖らせ貫手で思いっきりゴブリンを貫く!
無事光の塵となって敵は、葬り去られたのだった。
「ふぅ……やり切ったぜ」
「ほとんどワシの力じゃろうが!なんじゃあの反応の遅さ、力の無さ、魔力のカスさはァァァ!!!もやしにも程があろうが全く!!!」
「昨日言っとけよ…………」
「初回サービスじゃ!初印象は良くしたいからの!!!」
自身の左腕からダメ出しを喰らい、シュンと虚な目で遠くを眺めるコハク。
確かに自分でもアルマに頼りすぎているところが多々ある、特に攻防の時は顕著に出ている。
「でもさぁ、なんかこう……ガツンと攻撃してゴキンって防御したいんだよ!もっと素早く俺の意思でやりたいんだ。」
「うーむ、確かにそうじゃな。戦闘中にいちいち口頭で話されても、タイムラグがある。こんな雑魚相手じゃまあ大丈夫じゃろうが、この先ワシらが倒す魔物達にとって大きな弱点となるじゃろて。」
岩壁にもたれかかりうーんと考え込むコハク。
出会って2日目、まだまだ互いのことをよく知らないがこうやって話せているという事実に安堵する。もしかして何処かで裏切られ肉体を奪われるのではないかとヒヤヒヤしていたのだ。
(とはいえこのままいけば確実に何処かで死んじまう。強くなって沢山稼ぐ…………こんなに難しいなんて…………)
悩むコハク、それを見かねてかアルマはニィっと笑って顔の前に出てきた。
「じゃが安心せえ!そんなこともあろうかと解決策を練っておったのじゃ!」
「何!?」
むふーっと鼻息(?)を吐きながら豪語するアルマ。周りの
「なんだよ、その解決策って?」
小声で近づきながらコハクはアルマに問いかける。
「お主の攻撃の流れを説明すると────
動きを見る→ワシに合図する→ワシがお主の合図通りに行動する→術が発動する
こう言った感じじゃ、非常にタメが長すぎる。これじゃ速い攻撃についていけん。」
「確かに……言われてみればそんな感じだな。」
「じゃろ?まあその行為を『儀式』として昇華するなら話は別だが、まずは省略することから始めるとするかの。」
そういうとアルマは魔力をズズズっと放出しながら、自身ありげな顔で俺を見つめるのだった。
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