第二装 『渇望と執念』
その後二時間が経過、派手に吹き飛ばされてもめげずに俺はひたすら魔物と戦っていた。
非力なその力で。
「はァ……はァ……これでどうだッ!!!」
「ギャウ!……フゥ……フゥ……」
ブロンドソードはゴブリンを斬るが、その切れ味は名の如く小さな裂傷しか与えれない。
それもそのはずこの剣はフリマで自作の武器を売っていた人から、オークションで落としたもの。
必死に競り合い8000円を出したところでスッと消え、明らかに問題点しかない武器を買ってしまったのだ。
ダンジョンの受付に届けられた時は度肝を抜かし、すぐにロッカーに収納してもらった覚えがある…………
「これでッ…………終いだァァァ!!!」
「ギャオウ!」
それでも必死に斬りつけ、そのまま倒れ込む形でようやくゴブリンを倒した!
「はぁ……はぁ……20分。20分でやっとだ…………」
疲労がたまり、おもわず尻餅をついてしまう。
ひたすら防御に回り、隙を突いては攻撃。
永遠に思えるターン制バトルにスタミナは底を付きかけていた。
が、うかうかしてはいられない。
問題は、ドロップするかどうか!!!
魔物が死んだときその体は魔力の構成する粒子、【魔素】になる。
その時に魔石に干渉せずに発散すれば無事ドロップ
失敗すれば報酬無し。
『ボワッ』
死体は流血を止め、その身を紫の魔力が覆い煙となる。
待ちわびた光景!
手で視界を確保し目を凝らしたそこには…………
『すか~ん…………』
「なんでッ!なんで無いんだよォ!!!」
砂利と小石の地面には、一切の闘いの痕跡も成果は無い。
今日は十体戦って、3個の魔石と5本の尖牙。
あまりにも残酷な現実に目を背ける。
どれだけ頑張って倒そうが、報酬がなければ意味がない。
スキルや魔力が効率的に増えるわけでもなければ、確率を変動させることもできない。
世界は60年前…………いや、元より弱肉強食。
逃げても逃げても、その事実はどこまでも追いかけてくる。
「っしゃあ!30個目ェ!!!」
「お前豪運だなホントに!一層でコレとか俺たちどうなっちゃうんだよぉ!」
遠くの方で何人もの男たちの楽しそうな声が聞こえる、多分高校生か大学生。幸せを共有できる仲間とそれを実現できる実力、両方を兼ね備えた彼らは『無敵』であった。
「クソっ!クソォ!!!俺だって……ヤバいのは分かってる!分かってるからこうやって焦っちまうんだよ!!!」
周りに劣り、自身の選択を後悔する。
やるせなさから思わず、近くにあった石ころを思いっきり向こうに蹴飛ばした!
『コン!コロコロ!』
怒りと後悔、そして渇望の念が入った石のカケラは地面や壁を跳ね飛び音を立てる。周りに反響しようが、誰も何も気づかない。
まさに今の俺みたいだ。
「どうすりゃいいんだよ……見栄張って来ちまったのに、燻ぶってばっかじゃねえか…………」
『カラン!コーンコロコロコロコロ…………』
優しい家族は俺の道を否定しなかった。
独り暮らしをしたいと言えば選別費を贈ってくれて、卒業までに家事・洗濯・料理…………生きていくスキルをバカな俺に教えてくれた。
まあ結果は見ての通り、一切役に立たせれなかったが。
時には喧嘩もしたし、口を利かないことも、絶縁しようと思ったときもあった。
でも改めて思う、いないといない胸の所にぽっかりと穴が開いてしまうことを。
『コン!コロ…………』
そんなことを考えていた時であった。
『ゴロン!ゴロゴロ……』
「ん?なんだ今の音?」
蹴った方向へ向かい視界から消えた石っころの方へと向かう。
壁に均等に立てかけられた松明が響く空間を明るく照らす。
ずんずんと進み2m、3m進んだ時だった。
「こ……コレは!?」
そこにあったのは、空洞。
2mほどの高さの穴が壁に開いており、その少し奥に砕けた石ころが落ちていた。
(あの形、蹴っ飛ばした石ころだ間違いない。)
よく見ると少し歪な形で奥へと続いており、向こうには松明の灯りが見えた。
「もしかして…………ダンジョンのお宝部屋ってやつか?まさかこんな所に!?」
噂にだけ聞いたことがあるダンジョンの隠し部屋、確か深層…………『50層』から下に稀に生成される部屋があるらしく
中にはレアな金属や秘宝が隠されているらしい。
しかし妙だ、あまりにも雑すぎる穴。とてもダンジョンの構造とは似つかない、まるで……
強引に岩を掘削したと言っても過言ではないほどの適当さであった。
「どうしよう…………入って……みるか?…………」
普段なら絶対入らない穴、挑戦的で危険なことはいつの間にか避けていた。
『安定』『不変』『日常』。
いつの間にか湧いて出た目標……その結末は、永遠に変わらないゲロみたいな日々。
報酬の少なさ、現状への不安、そして一筋の希望。
多額の負債を抱えた債務者が、競馬で一発逆転しようとするほどの無謀さ。
琥珀色の瞳が、ほんの少し輝きを取り戻した。
「あっぶね!?マジで見えねえぞここ…………」
奥から見えるわずかな光を除き、地面はおろか手元すらも見えない暗さ。
こんな穴今まで見たことがない、つい最近…………それこそ3日ぐらいにできたのか。
毎日ダンジョンの一層をくまなく巡ったからこそわかる違和感、この生活の数少ないメリットか。
ようやく光が大きくなり、コハクは希望に胸を膨らませる。もしかしたら珍しい品が手に入るかもしれない、それを売って金を稼げば…………
「凌げる…………今、だけ。」
そう言った品は安くて五十万、高くて数千万と行く。売れば大量のお金が一気に手に入る、半年はお金に苦労せず過ごせるだろう。
今を過ごす、今だけやり過ごす。
腑抜けた思考が、いつの間にか頭を支配していた。
3分ほど歩き続け、ようやく光の元へたどり着く。
目を開くと残念ながらお宝は無く、あるのは無造作に置かれた松明と四畳半ぐらいのスペース。
採掘者達の休憩所……とでも例えておこう。
「やっぱり…………か。どうせそんなんだと思ったよ、誰かのイタズラじゃないかってさ。」
信じて歩いてきた自分がバカバカしい、ありもしないことに労力を削がれては今日の報酬が下がってしまう。今すらまともに生きれないのに、未来の事を考えている暇はどこにもないのだ。
項垂れるコハク、大きなため息をつき後ろを振り返るが思った以上にこの部屋は大きいらしく入口の光が見えない。
「はいはい……また俺の人生みたいってか?」
うろちょろと左右に移動し微かに漏れる光を見つけ、再び歩み出す。
さっさと帰って魔石を売らないといけないのだ。こんな探検ばかりしていては、本当に生活保護を受けなければならない。
『グググ…………』
だがコハク、ふとその場で立ち止まる。まるで天啓を受けたかのような佇まい、その場に硬直していた。
(バカ待てッ!…………行きと帰りで、部屋の構造が違う? どう考えてもおかしいじゃねえかッ!)
気づいたときには、壁だと思っていたものは大きく動き俺のカラダに強烈な一撃を叩き込んでいたッ!!!
「ウグゥ!!!」
咄嗟の反射で魔力をお腹に溜めダメージを減らし内臓を守ったが、その恐ろしい一撃から放たれた凄まじい衝撃。
一番奥の岩壁に叩きつけられるようにぶっ飛んだ。
「ギギギ……ギギギギ…………」
「見えない……た……松明を。」
近くの魔石松明を手に持ちそいつの顔を光で暴く。
ゴブリン……スライムの特殊個体…………ワンチャン紛れ込んだオークの可能性も否定はできない。
だが、その正体は予想できるものではなかった!
「ゴーレム!?なんで一層にまでやってきてるんだ!?」
十層の覇者、ゴーレム。わざわざこんな上にまで上がり、洞穴を隠れ蓑にしていたのだ。
コハクは薄く消えそうな青色の魔力を腕に流し、体制を立て直す。
照らされた体は岩肌と同じ輝きを放ち、その赤い光を放つ目は間違いなく石の兵。
しかし体はボロボロ、片目は潰れひび割れた体を漏れ出た魔力がつなぎとめる。
間違いない…………幾つもの死線を潜り抜けてきた『特殊個体』だ。
「待ち伏せ…………ってわけか?」
「グググ…………」
そして何よりそいつをイレギュラーたらしめるのは────
『ドクッ……ドクッ……』
金色に輝きまるでゴーレムに寄生するかのようにくっついている…………
見る者惑わせる、強大な魔力を解き放つレア『魔石』であった。
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