【トラック2 『彼シャツ』しかっただけなのに】

//SE 包丁で野菜を切る音(手元から)

//SE 鍋の水が沸騰している、ことことという音


(寝ぼけ声。普段よりもかわいらしい感じで。少し遠い距離)

「うーん……」


//SE 鳥の鳴き声(遠め)


「……ハッ!」


「……知らなくもないい天井、朝チュンSE、味噌汁の香り……」


//SE フローリングがきしむ音


(遠かった距離が戻り、普通の声。後半で鼻声)

「わたしまさか、大人の階段のぼっ――」


(鼻をつままれている状態の声)

「おあよーごないまふ、先輩。鼻つばびツッコミ、斬新れす」


(普通の声に戻って)

「あの、これわたし、酔っ払って寝ちゃったって認識で、あってます……?」


//SE ローテーブルに置かれる汁椀の音


「……あってる、と。とりあえず顔洗って、朝ごはん食べちゃいなさい、と。いや、お母さんみたいに!」


(小声で)

「なんかすっごい、いつも通り……昨晩のわたし、告白したよね……?」


「いえ、なんでもないです。顔洗ってきます」


//SE フローリングがきしむ音

//SE 室内ドアの開閉音

//SE 水道をひねって水が流れる音(遠い)


(つぶやくように、遠い声)

「昨夜のあれは、もしかして夢?」


//SE 水道をひねって水が止まる音

//SE フローリングがきしむ音


(元の距離に戻った声)

「それじゃ、いただきます」


//SE 食器の音、咀嚼音


「はわ~……おいしい……ごはん、玉子焼き、味噌汁、ウィンナー……こういうのでいいんだよの詰めあわせ……幸せ……」


//SE 食器の音、咀嚼音


「ごちそうさまでした~」


//SE フローリングがきしむ音

//SE 食器を洗う音(手元)


(遠い声、自分に語りかける)

「いや本当に、いつも通りすぎない? わたし昨日、告白してオーケーもらったよね? わたしたち、つきあってるんだよね……?」


//SE フローリングがきしむ音


(遠い声終了)

「なんですか、先輩。戻ってくるなり、わたしの顔をじーっと見て」


「あ、コーヒーです? 朝ごはんのお礼に、いっつもわたしが入れるやつです?」


「なんかぎこちなくうなずいてる……とりあえず、コーヒー入れますね」


//SE フローリングがきしむ音

//SE 鍋の水が沸騰している、ことことという音

//SE コーヒーが落ちる音


「コーヒー、入りましたよ-」


//SE ローテーブルに置かれるカップの音

//SE コーヒーをすする音


「ふう。先輩、今日は四限だけでしたっけ?」


(途中からテンション高く)

「わたし二限からなんで、一回だけゲームやってから帰って……って、いつも通りすぎぃぃぃぃ!」


「わたしたち、つきあってるんですよね? 昨日のあれ、わたしの夢じゃないですよね?」


「……夢じゃないんですね。よかった……で、でも!」


「たしかにわたしは、いままでの関係を壊したくない的なことは言いましたよ?」


「でもこういうとき少女マンガだと、『いつもと同じことをしているのに、なぜかドキドキする……』みたいな雰囲気になるはずなんです!」


「先輩が、いつも通りすぎなんですよおおお!」


(少ししゅんとして)

「さすがにもうちょっと、カップルっぽくなっても、いいじゃないですか……」


「え? あ……そっか。お泊まりして朝ごはんって、すでに十分カップルっぽいことしてたんですね、わたしたち、てへっ」


(ハイテンションで)

「――じゃあないんですよ! ああもう、この人に彼氏ムーブを期待したわたしがアホだった」


「……先輩は、一応わたしの彼氏になったという自覚はあるんです?」


「……ふむ。ということは、わたしのお願い聞いてくれちゃったりするんです?」


「じゃ、じゃあ一個だけ。イチャイチャしたいまでは言いませんけど、昨日のよしよしするやつ、やってほしいです……」


//SE 身じろぎする音


「両手を広げたってことは、いいんですよね? お、おなしゃっす」


//SE ぎゅっとハグする音

//SE 頭をなでる音


(耳元に近い声)

「はわ~……これめちゃめちゃ気持ちいい……ハッ!」


//SE どんと人を突き飛ばす音


「先輩っ! 自分だけシャワー浴びたんですかっ!」


「なんという羞恥プレイ! あるいは匂いフェチっ! シャワー借りますっ!」


//SE フローリングがきしむ音

//SE 室内ドアの開閉音

//SE シャワー音(遠い)


(遠い声)

「わかっちゃいたけど、先輩ほんっと乙女心を理解してないっ! いまだって絶対、『シャワー貸してもいいけど返してねー。フヒッ』とか言ってるはず!」


「……でもまあ、そういうところを好きなったみたいなとこあるし。精神年齢が同じくらいっていうか。まあこれも、ほれた弱みってやつかな……」


「うわ……鏡の中の自分の顔、めっちゃ恋する乙女になってる」


「まあ……こういうことは、わたしがリードしなきゃいけないんだろうね、先輩を」


「……やってみるか。『彼シャツ』ってやつを……!」


//SE シャワーの止まる音

//SE タオルで体を拭く音


「やば……ワイシャツないし。まあ脱衣所にワイシャツ置いてある人なんていないよね……とりあえず、かわりにこのTシャツで……」


//SE 衣擦れの音


「えっろ!!! 丈が微妙すぎてギリパンツ見える感じえっろ!!! こんなんじゃ先輩のとこ戻れないっっっ!」


//SE ドアがゆっくり開く音


(遠かった声が少し近く、しかしつぶやき)

「どうする? とりあえず先輩の様子見てから決めるか? じゃあちょっとドア開けて……って、いやあああああ! 開いてる!!!!!! 先輩こっちガン見してるっっっ!」


「のぞき魔! 犯罪者っ! いくら彼女だからって、やっていいことと悪いことが――え?」


「やってない? ドアの立てつけが悪いから、激しく動くと勝手に開く?」


「ちょ、待って! わたしのひとりごと、ぜんぶ聞こえてたんですかっ!?」


//SE フローリングを走る音

//SE ベッドに人が倒れこむ音

//SE ぎゅっというハグの音


(耳元で)

「先輩を殺して、わたしも死にます……!」


「ちょっ……腰っ! なんで抱きしめるんですかっ! ……まあ、これなら見られる心配ありませんけど……」


「……自分の髪から、先輩と同じ匂いがするっす」


「なんか、逆にドキドキしてきました……」


「せ、先輩は、わたしになにかしてほしいこととかあります?」


「えっ? ……やってみますけど……」


//SE ベッドでもぞもぞ動く音


(反対側の耳)

「『ときどき反対側でしゃべってほしい』って、こういうことっすか?」


「……まあ……わたしもオタクなんで、気持ちはわかるっす」


「そういうの、うれしいです。先輩も、わたしをおにゃのことして見てくれてるんだって、わかりますし」


「……ふう。なんか、ずーっとこうしてられますね」


「昨日までは、ぼーっとする時間すら惜しくてすぐにゲームしてたのに……」


「いまのわたし、なんにもしてないです」


「なんにもしてないのに……」


//SE ぎゅっというハグの音


「めちゃめちゃドキドキして、ふわふわで、なんか気持ちいいです……」


(なにかを見つけたような)

「あ」


「あごから出てるヒゲを抜くASMRってあるのかな……」


(自然な笑い声)

「ふふっ。冗談ですよ。短いから痛そうですし」


「……いまの笑い声、ですか? 特に意識したわけじゃ……」


(恥ずかしさから半ギレ)

「か、かわいいとか……そんなわけ、あるかーい!」


「なんなんですか! 急に恥ずかしいこと言わないでくださいよ!」


「先輩のバカ……」


//SE ぎゅっというハグの音


(反対の耳元)

「……いまちょっと、ビクってなりましたね」


「体押し付けたから……?」


「ふふん。わかっちゃいましたよ」


「わたし、先輩に見られたり、ほめられたりするとめちゃめちゃ恥ずかしいけど」


(耳元にふうっと吐息)

「……こんな風に自分からするのは、意外と恥ずかしくないです」


(自然な笑い声。上機嫌)

「ふふっ。次はなにしよっかにゃー♪」


「髪を乾かして、学校に行け……?」


//SE ベッドから起き上がる音


「うわああああっ! もうこんな時間っ! ドライヤー借りますっ!」


//SE フローリングがきしむ音


「あっ、先輩こっち見ないでくださ……すでにガン見してるーっ!」


//SE 室内ドアが開閉する音


(遠い声で)

「先輩のドスケベジェネレーション! ……って、それワシも入っとるやないかーい!」


//SE ドライヤーの音


「……せっかくいい感じだったのに、またいつものイタい後輩やっちゃった……」


//SE ドライヤーの音、終了

//SE 衣擦れの音


「昨日と同じ服……」


「ま、まあ、わたしのことなんて誰も見てないし、いいか……」


//SE ドアの開閉音


(近い声になって)

「すみません、先輩。わたしかわいい彼女じゃないけど――めっちゃ目かっぴらいてこっち見てるー! 俺はおまえを見てると言わんばかりにー!」


//SE ぎゅっとハグする音


(耳元の声)

「な、な、なんですか?」


//SE 頭をなでる音


「そんなことされたら……調子に乗りますよ? わたし先輩にとってはかわいいのかもって、思い上がっちゃいますよ?」


//SE ぎゅっというハグの音


「先輩は、物好きな人っすね……」


//SE ぎゅっというハグの音


「……今夜、続きしたいっす」


//SE ぎゅっというハグの音

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