【ASMR】セルフツッコミ系のイタい後輩が普通にかわいくなっていくまでの三日間

雪福

【トラック1 飲み会から一緒に帰ってきて】

//SE コンクリートを歩く足音(二人分)

//SE 背負っていたリュックを下ろす音


「あ、鍵っすね。先輩。リュック持ちますよ」


//SE キーホルダーのじゃらり、という音

//SE 玄関ドアが開く、きしんだ音


「ただいま、我が家」


//SE ぴしっと軽いツッコミの音


「てっ……『ここは俺の家だ』的チョップツッコミ……」


「でも毎日のように入りびたってるんだから、もうわたしの家みたいなもの――」


//SE ぴしっと軽いツッコミの音


「んふっ……はいはい。すいません。それにしても……」


(疲れ切った声で)

「あー、疲れたああああぁぁ……」


//SE どさっと床に荷物を置く音

//SE ドアが閉まる音


「先輩は、ぜんぜんけろっとしてますねぇ」


「わたしはいつもゼミの飲み会、出ないんで、肩めっちゃこったっすよ~」


(ハイテンションで)

「まあ巨乳だから、肩はいつもこってるんすけどね! ドヤッ……って、ないよ! 胸ないよ! ふくらみぜんぶ、臀部(でんぶ)にいっちゃってるよ!」


「いや先輩、顔ぉ! 『そこまで貧乳じゃないけど、まあ巨乳ではないな』って、

冷静にわたしの胸をジャッジ顔(がお)ぉ!」


(素に戻って、恥ずかしそうに)


「……なんなんすか、先輩。酔ってるんですか?」


(モノローグ風に)

「こうやって毎日部屋に遊びにきても、一緒にゲームをするだけ。彼女のことを、女扱いなんてしたことなかった。けれど今夜の彼女はやけに魅力的で――」


//SE どさっと、ベッドに倒れこむ音


(ハイテンションで)

「ちょいちょいちょーい! いま話の途中で、ふっつーに寝転がった? 『いまも女扱いしてないが?』と、言わんばかりに!」


「……ふう、やれやれ。先輩は、どうやら気づいてないみたいですね」


「先輩がそうやって鼻ホジ顔(がお)をしていられるのは、後輩のわたしが本気を出してないだけということに」


//SE ベッドでもぞもぞ音


「おんやぁ? ガチ寝の体勢になるなんて、実は先輩くん、ビビってるぅ?」


(鼻で笑う)

「ふふん。いいっすよ。乳はなくても、女には武器があるんです。乳はなくとも」


「いまから、わたしの本気をお見せしましょう」


//SE 衣擦れの音


「ドヤっ」


(ハイテンションで)

「……って、靴下脱いだだけぇ! 『わたしだって、女の子なんすよ……』的な展開、無理ぃ! いくら酔ってても、そこまで体張れませんからぁ!」


「え? ……そりゃ酔ってますよ。わたし、お酒弱いですもん」


「ゼミの飲み会も、いつも行かないじゃないですか」


「今日は……新歓(しんかん)だからですよ」


「後輩に、かわいいおにゃのこ、いっぱい入ってきましたし」


「きちんと監視しておかないと、わたしの先輩が、って――」


(慌てた様子で)

「うわああああ! 閉じろぉぉぉ、わたしの口ぃぃぃぃ! これもう半分、コクったみたいになっちゃってるぅぅぅ!」


「はわわわわわ! はわわわわわわ!」


//SE ベッドに倒れこむ音


(荒い呼吸。耳元で)

「はあ……はあ……テンパりすぎて、抱きついてしもうた……」


「えっと……先輩、怒ってます? セクハラで訴(うった)えます?」


「本当ですか? 怒ってませんか? よっぱっぱの戯言(たわごと)と、聞き流してくれますか?」


(自信なく)

「……うう、怖くて先輩の顔を見る勇気がないっす。でも……」


//SE ベッドでもぞもぞ音


(少し上の位置からの声)

「うわ……先輩めっちゃ真顔っすね……」


「あれ? 目そらした? 真顔のまま、目だけそらした?」


「もしかして先輩も……緊張してます?」


「……くぅ」


//SE ベッドに倒れこむ音


(耳元で)

「すみません。また抱きついてしまって」


「いままでこういう空気になったことないから、緊張して……」


「もう、どいたほうがいいですよね……?」


「無言ですか」


「無言じゃあ、どっちかわからないっす――」


(驚きの声)

「ひっ」


(慌てた様子、後半はやけくそ)

「こ、腰に手を回すとか、先輩、実はヤリ持ちチンプルナイトですかっ、って、おいいいいいいいい! それもうほとんどヤリチンって言っちゃってるぞコノヤロー!」


(しゅんとして)

「……すいません。限界を超えちゃってるんです……心臓がバクバクです。全身が燃えてます。頭がクラクラします」


「あの……オタク女セルフツッコミするまでは、いい感じに告白の流れだったんですけど、いまから修正ってききますかね……?」


「む、無言はイエスと見なしますよ。じゃあ、このままASMR告白しちゃいますからね! キモかったら突き飛ばしてくださいね」


(自信なさそうに)

「……い、いまならまだ、普通のゲーム友だちに戻れますよ?」


「うう……勇気が出ない……先輩、背中押してください……」


(ハイテンションで)

「おいいいいいぃ! 誰が物理で押せって言ったぁ!」


(ハイテンションで)

「『せなか、こっち見て!』じゃあないんだよ! そのうちわ、どっから持ってきたあああ!」


「こんなにボケられたら、わたしが、『先輩、大好きです』って言えないじゃないですかっ!」


(恥ずかしそうに)

「……くぅ~!」


//SE 枕パンチ音


(溜めていた息を吐く)

「……ふう。ひとしきり身もだえて、落ち着きました。というか勢いで告白しちゃうと、楽になりますね」


(ささやき声で)

「でも、サーセン先輩。ひと目ぼれとかじゃないっす。ふっつーに毎日ゲームしてたら、ずっと一緒にいたいなって思っちゃったやつです」

「だって先輩、優しいし」


「アイスとかケーキとか、絶対にひとくちわけてくれるし」


「徹夜で遊んだときは、必ずお味噌汁作ってくれるし」


(軽く笑って)

「そっすね。餌(え)づけされましたね」


(照れ笑い)

「わたし、チョロいんですよ。いまでは先輩のさえない顔も、大好きですもん」


(おずおずと)

「あ、あの、先輩。そろそろお返事をですね……いただけたりしないかな、とか思うんですが……」


(慌てた感じで)

「あ、あ、やっぱいいっす。いまのナシ」


(鼻をすする音)

「うう……だって……怖いですもん……」


「先輩といると、本当に毎日楽しいんですもん……」


(涙声)

「この関係を……壊したくなかったのに……うう……」


(かぼそい声)

「でも、もう言っちゃいましたしね……」


「酔ってなくても、いつかはこういう空気になってますよね……」


「よし、覚悟を決めましたよ」


「それじゃあ、先輩。キュー振りするんで、必ず口に出して言ってくださいね」


「いきますよー。先輩のお返事まで、3、2、1、キュー!」


(およそ八秒の間を置いて、感極まった感じで)

「……くぅ!」


//SE ぎゅっというハグ音


「すみません、先輩。よく聞こえなかったんで、もう一回お願いしてもいいです? 3、2,1、はい」


(数秒の間を置いて、すすり泣く声で)

「うっ……うう……すみません、耳元で泣かれたらうるさいですよね……」


「でも、わたし、うれしくて……うわ~ん!」


//SE ぎゅっというハグ音


「先輩、本当にいいんです? わたしみたいなセルフツッコミするイタい女が彼女になって」


「『まあ』って、そっけな……ウザいとか思わないです?」


「『ウザイとは思う』んかい!」


(くすくす笑い)

「そっすね。これからも、退屈だけはさせないと思います。ゲームの腕前も、おんなじくらいですしね」


「げ、ゲーム以外は……がんばるっす。とりあえず……」


//SE ベッドでもぞもぞ音

//SE 衣擦れの音


「違いますよ。靴下をはいたのは、ゲームするためじゃないっす」


(恥ずかしそうに)

「先輩は……靴下だけは脱がさないタイプかなって……」


//SE 軽いツッコミの音


(軽い悲鳴)

「んふっ ……このチョップ、どっちのツッコミですか。わたしがから回りしてるから落ち着けってことなのか、先輩は脱がすタイプってことなのか……」


//SE 頭をなでる音


「うう……すみません。先輩やさしい……」


(前半笑いつつ、後半寝息)

「……えへへ。先輩………………好き…………………すう」


(フェードアウト)

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