第12話

「子どもたちに学びの機会を与えたい、そのためにお勤め先を変えられることをお考えですか」


 そう声をかけられ、彩音は自身に問う。


 今の仕事が、本当にやりたいことなのか……。

 私は、仕事を続けていきたいのか……。


 これまでは具体的に考えたことがなかった、『転職』という言葉が頭を過る。


「正直、今は分からないです……。ややこしそうなことが起きたばかりで」


 そうですよね、と神主は何度か小さく頷いた。


 はぁ、と天を仰いだ彩音に、あの、と神主は声をかけた。

 神主の方へ向き直ると、少し困ったように眉を下げた彼の表情があった。


「なんでしょう?」

「……大変なご状況の中で、このようなお話をするのはご迷惑でしょうし、本当におこがましいのですが」

 

 ためらうようにそこで一度言葉を切り、再び話し出す。


「白稲神社の奥にある離れを、夕方から夜にかけて子どもたちの学びの場として開放し、今は私一人で指導をしております。ちょっと特殊な事情の子どもたちなのですが、本当にみんな熱心で……」


 急な話の展開に少し驚きながらも、素敵なことだな、と素直に思った。

 それにしても特殊な事情ってなんだろう。不登校とかの子が通う、フリースクール的な感じ?

 頭にハテナを浮かべつつ、相槌を打つ。


「へぇ、そうなんですか」

「もし、もしの話ですが。お勤め先を変えようとお決めになって、例えば次が決まるまでの間だけでも、先生としてご指導していただけないかなと思いまして」

「えっ!? 私がですか」

「はい。日中にお勤め先を探しながら、夜に少しお時間をいただくだけで十分です。もちろん、相応のお給料はお支払いします」


 なるほど、無給期間になる転職先探しの間も、つなぎ的に収入があるのは大きなメリットだ。


「ご遠慮なく、お断りいただいて構いません。ただ、子どもたちの学びの場をとても大事にされているご様子だったので、こうしてお誘いしてしまいました」


 突然の申し出に戸惑いはありつつも、現状の仕事に不満ややるせなさを感じていただけに魅力的なものではあった。

 しかし、恭弥と朱里のことをまずは解決しないことには始まらない。


「すみません、ちょっとすぐにお答えできないです……」

「全く問題ございません。無茶なお願いであることは重々承知しております。ご自身のペースで、ゆっくりご検討いただけたらそれだけで」


 気になる点や知りたい点がありましたら、事前になんでもお話ししますので、と神主は言い添えた。

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