神話を詠む者::原典/蒼紅之章

第14話-旅は道連れ

「君達は、翠葉樹海グロッシュラーフォレストに行くのかい?」

次の目的地を定めようとする時、泉の背後から、そう、声がした。

「...えっと、いや、まだ決めては...」

「もし行くならで構わないから、僕をそこまで連れて行ってくれないかな」

金髪の猫獣人フェリセナの少年は、真っ直ぐな瞳で泉を見ていた。

沈黙が続く。

それを破るように神天が言葉を発した。

「正直、船で行くのは不可能に近い、泉の言う通り、森から行くしかないだろう、その間ついて来ればいい」

猫獣人の少年は顔を明るくして、尻尾を少し立てている。

「でも、出発の前に色々準備しないと」

「賛成だ、ここに来るまでに消耗したものを補給しないとな」

「私も同じく、だ」

ここから森まで、かなり距離がある。

その間、携帯品が枯渇しないようにしなければ。

三人で足りないものを示し合わせて、雑貨屋へ向かった。

.........。

「こんなものかな...?」

「ああ、これなら何かがあっても少しは持つだろう」

雑貨屋で、必要なものを手に取り、泉が神天に確認する。

「まだ独りの時は意想外いそうがいの事態など間々あった、次から気を付けなければ」

エンシェンが独り言のように言った。

泉には、それよりも聞きなれない言葉の方が気になってしまったが...

(いそうがい、って何だろ?)

............。

雑貨屋の用を終え、外に出る。

「二人とも...」

エンシェンが泉と神天を呼び止めた。

「ここから先、リフリと呼んで欲しい 」

「...いいけど、どうして?」

「神天と名前の響きが似ていて、少しややこしいかとな...それと、呼び捨てで構わない」

声に抑揚はなかったが、その頬は、ほんの少しだけ緩んでいた。

「...一時とはいえ、仲間なのだから」

少し顔が下を向いたように見えた。

その目には睫毛が深く影を落としていたが、いつもより、はっきりと瞳が見えた気がした。

「うん!一緒に頑張ろ!」

泉は、それに笑顔で応えるのが良いと思った。

//////

同日、夜。

街の宿の一室。

(護衛の目を盗んで飛び出したは良いけど、戻る方が大変だとは考えてなかったな...)

翠葉樹海に行くつもりの冒険者がいなければ詰みのようなものだったろうに。

(まさに奇跡...)

だが、まだ安心出来ない。

(もし僕が彼らに触れれば......本当に、厄介なのろい)

億劫な現実に、ため息が零れる。

「ずっと外に居れれば...」

憂鬱な気分のまま、睡魔に意識を奪われた。

//////

早朝。

「準備を欠いてはいないな?」

神天が泉に呼びかける。

「昨日のうちに終わらせて、さっきも確認したから大丈夫...な、筈」

口篭る泉。

「...はぁ、不安なら確認しろ」

「...う、うん」

泉がベンチで荷物マジックポーチを再確認していると、エンシェンと、あの猫獣人の少年が宿舎から出てくる。

「昨日は申し訳無かった、名乗りもせず無理を言って...」

少年は出てくるやいなや、謝罪をした。

「僕の事は、タマと呼んでほしい」

荷物の確認を終えたのだろう、泉が戻ってきた。

「大丈夫だよ、準備が終わったら行こう!」

結局、朝早く起きたのに街を出るのは、朝の中頃だった。

...。

「このまま北西に行けばいいんだよね」

泉が方角を指差して確認する。

「ああ、このまま道のりに進もう、強い魔獣もいないだろうからな」

「よし、行こう!」

そして、時は進み、日が暮れた頃......。

一行は、平原の、一本の木の下で、野営をする為の準備を進めていた。

とはいえ、そのほとんどを終えたところではあるが。

暇になった泉が、焚き火の近くに座る。

神天はまだ準備をしていて、エンシェン、いや、リフリは目を瞑り、瞑想をしている。

タマは...もう寝たようだ。

(もうこんなに遠くまで来たけど、村を出てからそんなに経ってないんだよね...)

チョーカーの青い宝石に触れて感傷に浸る。

どんな顔をしていたのか、は分からないが、神天が気にかけてくれたのか、飲み物をくれた。

「今日は、信じられないほどに何も無かったな」

側に座った神天が話し掛ける。

「そうだね、まぁ、逆にこの前までが色々ありすぎたんだと思うけどね」

「この先、こんなのが続くんだ、大丈夫そうか?」

「なんの変化もない森とか、洞窟とかよりは大丈夫だと思うよ?」

あの時の泉は辟易へきえきとしながら進んでいた。

神天も、あの時はまだ出会ったばかりで、特に話すこともなかったが、今は違う。

少なくとも、こうして共に旅する仲間がいる。

それでも少ないのなら、まだこの先の旅で増やせばいい。

時間は無限にあるのだから。

「泉、向こうに着いたら......寝たか...」

神天が見た時には、泉は膝を抱えて座るように眠っていた。

横には、空のコップが置いてあった。

いつの間にか瞑想を終えていたリフリが近寄る。

「見張りは蓮...私の式神がやる、だから火は消すな、私達は寝よう」

リフリはそのまま、眠る泉を抱えてテントへ入っていった。

神天も、コップを片付けて、別のテントへ向かった。

焚き火の炎は揺らめいたまま。

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