第13話-次の道

まだ、丘の頭から日が出きっておらず、仄暗い時間。

訳もなく目が覚めた。

昨夜、エンシェンの過去の話を聞いた後、話された内容は、神天に話したものと同じ話だった。

一部違うところをあげるなら、"蒼"を斃す為に力を貸してほしいという話があったこと。

当然泉には、そんな話の違いがあったことなど分かる筈もない。

ただ、部屋で話を思い出し、悶々としていた。

(どうしようかなぁ...っていうか、あんな話聞かされて断れないよ?普通...)

低い太陽が、窓から光を差し込む。

...大きなため息が出た。

//////

......焼かれている。

人が、家屋が、村が、故郷が。

......われていく。

渦を巻くように、水が流れるように。

蒼い光を放つ炎は動きながら、燃える。


-何も、できない-


「...っ、はっ...!」

息が荒い。

(うなされていたのか...?)

どんな夢を見ていたのか、思い出せない。

まだ日は低いが、起床するには十分だ。

(泉はもう起きているのか...?)

仰向けのまま、深く息をついた。

//////

街を超えた景色の先、丘の地平の奥に薄く陽光が見える。

椅子に座り、貝殻のネックレスを握った拳を額に当てて、また目を瞑る。

瞬時に、次々と蘇る、過去の記憶。

絶望、幸福、日常、哀別、孤独、切望。

妹と暮らした日々は、旅の時間と比べて、決して長いものではなかった。

だが、それは心の中におちて、千年の時を超える、長い時間になる。

(あの時、師匠の願いを断っていたら...?)

孤独を味わわせる訳にはいかないと、残した結果、結局、孤独にしてしまった。

そして......。

...瞑っていた目を開く。

太陽は既に、空に昇りきっていた。

...天井を仰いで一つ、息を零した。

//////

部屋から、宿舎から出る。

ギルドとは隣り合わせの建物なので、玄関を出てすぐ左にはギルドが立っている。

そして、その玄関を出てすぐ正面のところに、神天とエンシェンがいた。

「おはよう」と、声をかけようとした時、そこに被るように欠伸あくびが出る。

そしてまた丁度、二人が泉を見つけた。

「...おはよう、野宿しても欠伸はしなかったというのに、珍しいな」

珍しいとはいえ、まだ神天と出会って1か月も経っていないのだが。

「えぇ...?いや、ちょっとまだ眠くって...」

エンシェンが首を傾げている。

「...すまない、そんなつもりはなかった、悩ませてしまったか...?」

「え?いやいや、そんなことないよ」

今度は神天が半目で見てくる。

「...はぁ......まさか俺に話したその日に話すとは思わなかったな...」

「神天も聞いたの?」

「多分お前が悩んでいる部分は聞いていないが、大体の話からその部分の想像はつく」

まさか同日にとは思わなかったが、と二回目を付け足された。

「...それで、どうしたい」

「私は......」

(エンシェンさんのことは助けたいし、協力もしたいけど..."蒼"はきっと今までと比べて、比較にならないくらい...)

その時、空腹を知らせる音がクゥと小さく鳴いた。

そして、どことなく張り詰めた空気が和らいだ。

「...先に何か食べるか」

神天の提案に、二人も頷いた。


リュームリューム麦のクルトン入りマノコーンポタージュ-

氷向ひむかい海老とアラッドソースシーザードレッシングサラダ-


まだ積葉の四半月の半ばとはいえ、朝は若干寒い。

起きたばかりで冷えた体をポタージュが中から温めてくれる。

頭に孕む眠気を、アラッドソースの酸味が消してくれる。

旬の氷向かい海老の香りが、口に広がり、気分を上げてくれる。

さっきまで悩み続けていたとは思えないほど、何かが軽くなった。

「私、さっきの話なんだけど、エンシェンさんに協力したいなって、思う」

「...ありがとう」

「...なんとなく、そう言うだろうとは思っていた、だから、引き止めるようなことはしないが...」

エンシェンの声の後ろで、神天が頭を抱える。

「どうやって凉霤リャンリウまで行く?道を決めなければ、道中の森林で彷徨い続けることになる」

そう、凉霤に行くためには、ここアルバ大陸の中で、大陸西部と大陸東部を分ける大森林、翠葉樹海グロッシュラーフォレストを通る必要があるのだが。

「それに、あそこの森は、深入りすると出て来れないという"実話"がある、普通なら・・・・、このまま北西に行くより、真西に進んで、船で行った方がいい」

一般的な手段を、神天は淡々と告げる。

ただ、「普通なら」の部分だけ強調して聞こえた。

そして、エンシェンが補うように続ける。

「...この季節、プノテル湾を横断するのは賛同しかねる」

「ああ、この季節は、小型怯游魚フォーヴテイプサが湾の方に来るからな、船にとっては最悪の時期になる」

小型怯游魚は、小型と言われていても、怯游魚の中で小型なのであって、人間よりは遥かに巨大である。

泉の養親は海漁に関わる生業だったため、幼い頃から養母、椀に怯游魚について教わって、その恐ろしさを知っている。

(たまに沖の方で跳ねてたなぁ、でかいの)

「仕方ないし、森を通るしかないんじゃない?」

泉がそう提案した時だった。

「君達は、翠葉樹海に行くのかい?」

背後から、そう、声がした。

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