第2話 もう誰も信じない

目を開けた瞬間、僕は息を呑んだ。

そこは、間違いなく──あの日、異世界に召喚された玉座の間だった。


「ようこそ、救世の聖女よ!」


華やかな装飾、歓喜に満ちた人々の声。

目の前には、王族や大臣たち、そしてあの人──王太子アレクが微笑んでいる。


(……どうして?)


処刑されたはずの僕が、再びここにいる。

あの地獄のような結末を迎えたはずなのに──すべてが、最初に戻っている。


──いや、違う。


巻き戻ったのは、時間だけだ。

僕の心は、もう戻らない。



「お名前をお聞かせください、聖女様」


「……ツバサ」


「ツバサ様……美しい名ですね。まさしく神の祝福を受けた者にふさわしい」


そう言って微笑む宮廷魔導師の青年は、前世でも僕に優しくしてくれた一人だった。

けれど、最後は……裏切られた。


アレクも。

大臣たちも。

騎士たちも。

侍女たちも。


そして、僕を「偽聖女」に仕立てあげたあいつ──カミュ。


(信じるものなんて、何もない)


笑顔を作る。うなずく。優雅にふるまう。

演じることにはもう慣れている。あの時、どれだけ必死に笑っていたことか。


心の奥で、黒く冷たい何かが広がっていた。

愛されることを願った僕は、裏切られた。

だったら今度は、誰も、信じない。


──誰にも、心なんて預けない。


ただ、静かに誓う。

もう二度と、騙されない。




そしてその夜、僕は城の中庭で空を見上げた。

前世と同じように、美しく満月が浮かんでいた。


「今度こそ、僕が……生き残ってみせる」


かすかに笑う。

それは、かつての“聖女”の笑みではなく、

どこか影を帯びた“処刑された者”の微笑だった。


──運命の反逆が、始まる。

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