処刑された聖女Ωが、もう一度愛されるまでの物語

みたらし

第1話 処刑台に咲く花

冷たい風が頬をなぞる。

空はよく晴れていた。今日が処刑日であることが、まるで嘘のように。


僕の手足は拘束され、処刑台の中央に立たされていた。白い装束は晒されることを意識したものだろう。

目の前には、民衆のざわめき。遠くで鐘が鳴っている。


(ああ、僕は……殺されるんだ)


かつて「聖女」と讃えられた僕、ツバサ。

異世界に召喚されたΩで、奇跡の力を宿すと期待された存在だった。


だけど、すべては一人の声で崩れた。


「ツバサ様が魔族と繋がっていた証拠が……!」


誰かが告げた“証拠”という名の嘘。

王太子がそれを信じた瞬間、世界は音を立てて崩れた。


「罪人ツバサ。神聖国家エルフェリードを裏切り、魔と通じた罪により──死を以て償え」


淡々と読み上げられる罪状。

違う、違うんだ、僕は──


言葉は声にならない。喉が痛む。

いつの間にか泣いていた。痛みも、怒りも、悲しみも、もう全部わからない。


けれど、ただ一つ、わかることがある。


――あの人は、僕を見てもいない。


処刑台の下。玉座のような席に座る王太子アレク


いや、かつての僕が愛した人、アレク。

氷のようなまなざしが、僕を突き刺していた。


(なんで、助けてくれなかったの……?)


涙が頬を伝い、地面に落ちた。

その一滴が、まるで白い処刑台に咲く花のようだった。


──ザシュッ。


鈍い音とともに、僕の視界が傾く。

時間が止まったように思えた。


(……もう、終わるんだね)


そう思った瞬間だった。


視界が、光に包まれた。

温かい、柔らかい……でも、どこか懐かしい光。


そして──


「──“聖女様”、お目覚めですか?」


耳元で、あの日と同じ声がした。


(……え?)


次に目を開けた時、僕は見た。

あの日、召喚されたあの場所。王宮の玉座の間。


だけど、まだ誰も僕を憎んでいない。

僕を裏切っていない。


──時間が、巻き戻ってる。

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