第2話 こんな私はお好きですか?

 エルフ。それは清楚で可憐にして、おしとやか。……なんて思ってた時期が俺にもありました。


「私が喋りすぎってなんですか? コミュニケーション不足は不仲の原因になりますよ? 私はカイトともっと仲良くなりたいんです。だっていつかは一緒に暮らすことになるんですから。なんなら今からでも大丈夫ですけどね」


「さっきからよく噛まずに言えるよな」


 よく考えてみれば、作品によって気の強いエルフもいれば、よく喋るエルフもいる。

 だから結局のところ、どんな種族でも性格は人それぞれだという当たり前のことを忘れてた。


「カイトは知っていますか? 実際のところ冒険者同士での結婚って多いんですよ? そしてその多くが同じパーティーだというデータがあるそうです。まさに私達は今、同じ状況です。だから早く——」


 その時、さらに熱弁するアイリの背後からオオカミのようなモンスターが迫って来ているのが見えた。俺はそれを排除するため、魔法の準備をしつつアイリに向かって叫ぶ。


「アイリ! 後ろからモンスターが来てる! 俺が魔法を放つから避けて!」


「——早く私に決めればいいと思うんです。

……『破滅の風』!」


 アイリは振り返るとその手から、木々を全部なぎ倒しそうなほどの凄まじい勢いと轟音の風をモンスターめがけて放つ。やがて風が止むと、そこには傷だらけで動かないモンスターがいた。


 それからアイリは何事もなかったかのように振り返り、再び俺と向き合い、左手できらめく金髪を耳にそっとかけた。それはとても神秘的で美しいとすら感じる。


「こんな私はお好きですか?」


「こんなタイミングで聞くことか?」


 せっかく美しいと思ったのに。


 なんとも頼もしい限りだが、あんな物騒な名前と威力の魔法を片手間で使っちゃう子と平和に暮らせる気がしない。


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、俺ら出会ってまだ一ヶ月しか経ってない」


「まったく、本当に困った人ですね。期間なんて関係ないんですよ。一目惚れって言葉もありますからね。例えば初めて会った人が理想のタイプで、わりと話す機会がある場合、『まだ出会って間もないからアプローチするのはやめておこう』って思いますか?」


「話す機会がそこそこあるなら、まずはゆっくり時間をかけて、気軽に雑談できるくらいの関係性を築こうとするかな」


 でもそれができるかどうかはまた別の話。そう言っておきながらも、俺はできなかった。そんなことも独身だった原因のひとつになっているのだろう。


「そうしている隙に他の人にとられるかもしれませんよ?」


「それはまあ確かに」


 そうだった、前世での俺はそうやって時間をムダにしてきたんだ。実際アイリの言うことも分かるし、俺の考えだって間違ってないとも思う。


 それなら一ヶ月何をしてたのかっていうと、ただアイリと冒険者の活動をしてただけ。まずは冒険者としての基礎を固めることにしたからだ。


 冒険者が安定した職業じゃないことは分かっているけど、結婚するにしても生活の基盤がなくては、相手を不幸にしてしまうだけだから。

 

 それに戦力強化のためパーティーメンバーを募集しようとしても、アイリにめちゃくちゃ反対された。


「アイリって本当に19歳? 500歳とかじゃないよね?」


 日本だとこんなことを聞くと問題になりそうだけど、年齢を聞かれることはエルフからすると別に何も思わないらしい。


「確かにエルフは長命ですが、私は正真正銘19歳ですよ」


「そう。なんか俺より大人だなと思って」


「そうでしょうか? 恋愛に対する考え方の違いというだけだと思いますよ」


「そうなのか? とりあえず早く依頼を済ませてギルドに行こう」


 依頼内容はこの森にあるという薬草の採取。昼間だというのに薄暗く、どこか不気味な森。モンスターが出るので冒険者以外は近寄らないそうだ。


 森の中心に進むと少し開けた場所に出たので、辺りを見回すと多くの草が生えている。


「見た感じ薬草じゃないものも混ざってるから、鑑定しながら採取しようか」


 チート能力『アイテム鑑定』の出番だ。この世界でも鑑定士という職業が成り立つほどに、需要があるスキル。だけどそれを使える人は少ないらしい。


「私はエルフなので植物なら完璧に見分けられます」


 俺はスキルで、アイリは知識で薬草を採取することに。


 いざ始めようと思いさらに近付くと、誰かがしゃがんでいるのが目に入った。


(あれは……女の子?)


 ピンクの髪色をした、ゆるふわミディアムパーマの女の子が一人で薬草を引きちぎっている。


 おそらく魔法使いだろう。その服装は白を基調しており、かわいい装飾が施されたふわっとしたワンピース。スカートの丈は太ももの真ん中辺りまで。そして色白な生足にブラウンのブーツと、なかなかに攻めた格好だ。


 周りには誰もいない。もしかして一人でこんな所まで来ているのだろうか?


「あのさアイリ。あの子一人で来てるっぽいんだけど、大丈夫だと思う?」


「確かに疑問点はありますね」


「迷ったとかだったらいけないから、ちょっと声をかけてみようと思うんだけど」


「そうですね。カイトならそう言うと思っていました」


 というわけでアイリの許可を得た俺は、女の子に話しかけるため近付いた。


(あれ? 俺はなんでアイリの許可なんて取ってんだ?)


 まあそれは今は考えないことにして、女の子に声をかけるべく近付いた。

 すると女の子が何やらつぶやいている声が耳に届いた。


「あぁ彼氏ほしい彼氏ほしい彼氏ほしい……」


(あ、これ関わらないほうがいい案件だ)


 そう思ったのも束の間。どうやら女の子が俺に気が付いたようで、スッと立ち上がって俺を見るなり一言。


「もしかしてナンパ!?」


「全然違います」

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