最終話「峻厳の騎士団」

 突如現れたダアト人の男性に、ソフィアが近づいて話しかけた。


「マルクス、君の気持ちはよくわかる。だが彼らは、山賊に追われてここに逃げ込んで来ただけだ」


「困っている人を見捨てるほど、君の良心は無くなってしまったのか?」


「ソフィア、お前は甘すぎる! 小さな緩みから崩壊は始まるんだ! ようやく手に入れた平穏を、人間どもに奪われてたまるか!」


「我々も、感染するまでは普通の人間だっただろう? 別の種族のように捉えるのは、悪い癖だと思うのだが?」


 彼女が冷静に話す様子に、マルクスという男性は歯ぎしりをした。


「……やはりお前とは解り合えん。勝手にしろ……! だが長居はさせるな。準備が整ったらすぐに村からつまみ出せ!」


 彼は苛立ちながら部屋を後にした。ソフィアは軽くため息をついて、931小隊に謝罪する。


「すまない。見苦しい所を見せてしまった」


「さっきの方は……?」


「ゲブラー・エクエス副隊長の『マルクス・ホルツマン』だ。……過去に色々あってね、ダアト人以外の人間を酷く恨んでる。気を悪くさせて申し訳ない」


「いえ。大丈夫ですよ」


 カレッジたちの言葉にソフィアは一安心した。そして、彼女はこれからについて931小隊と話し始める。


「ところで……君たちはノアーズシティに向かっていると言っていたな?」


「はい。どうしても治療薬を届けないといけないんです」


「そうか……しかし、あそこまでまだ数百キロ離れている。我々も車両は保有しているが、あまり大人数を長距離乗せることのできるものがなくてな……」


「申し訳ないのだが、装甲車を修理できる部品と整備士が見つかるまで、この村に留まってはくれないか? マルクスたちのような排除派は、私がなんとか説得する」


 カレッジ、アンジェラ、アドナはしばらく思考し、話し合った。そして、決断を下す。


「わかった。しばらくの間、世話になることにしよう」


「ただ、何もせず居候させてもらうのも気が引けます。我々にできることなら、何かお手伝いさせていただけませんか? 我々は戦闘部隊ですし、治安維持や軍事指導なども行えますよ」


 アンジェラとカレッジの言葉に、ソフィアは静かに笑みを浮かべた。


「ありがとう、素晴らしい提案だ。村での農作業も、ゲブラー・エクエスの活動も人手不足だからな……とても助かるよ」


「いいってことよ。俺の愛車を直してもらえるならなんでもするぜ」


「では早速、準備をするよ。ティナ、彼らを作戦本部へ案内してあげてくれ」


 そう言ってソフィアは談話室を後にした。そして、ティナというソフィアの側近が話し始める。


 「こんにちは。私はゲブラーエクエス『広域行動隊』A班隊長……そして、ソフィア隊長の側近でもあります『ティナ・ベルナール』です。これからどうぞ、よろしくお願いします」


 礼儀正しく、凛とした猫耳少女。その瞳は微かな緊張を示していたが、マルクスのような敵対的な感情は見受けられず、931小隊の真意をうかがっている様子であった。


 (ティムとティナ……ちょっと似てるな)


 (名前だけだろう)


 アドナのボケに、アンジェラは小声でツッコんだ。


「ゲブラー・エクエスは活動内容の都合上、マルクスさんのように純粋な人間に対して不信感を持つダアト人が多数在籍しております」


「ですが私も含め、皆総隊長を慕っておりますので、どうかご安心ください。では、指揮本部へご案内いたします」


 堅苦しながらも、丁寧な言葉に931小隊のメンバーは安心感を覚えていた。


 ティナに案内され、小隊一行は中央の建物から兵舎の側にある建物へ向かった。


 比較的大きなその建物の中へ入ると、中には無線機や大きな机ひ地図や資料が置かれた部屋が顔を覗かせた。入ってきた931小隊に、作業をしていた隊員らしきダアト人が視線を送る。


「来たか。では早速紹介を始めようか……全員注目!」


 待っていたソフィアの一声で、隊員たちは一斉にソフィアと931小隊の方を向いた。


「皆、聞いてくれ。昨晩、エデン地区からやってきた931小隊の方々が、しばらくここプラギストンへ身を置くことになった」


「彼らは数々の実戦を経験したベテラン部隊だと聞いている。我々ゲブラー・エクエスに、ご指導をしていただけるようだ」


「不安に感じる者もいるだろうが、彼らに敵意は一切ない。親切に接してあげてくれ」


「……以上」


 ソフィアの話に、隊員たちはザワザワし始めた。多くの隊員は、931小隊へ警戒や不安、恐れを抱いていた。


「……さて、今日は部隊訓練の予定は入っていないので、農作業のお手伝いをしていただけないしょうか?」


「もちろん、頑張るよ」


「ありがとうございます。ありがたい限りです」


 また移動している最中、ゲブラー・エクエスのダアト人隊員から、話し声が聞こえてきた。


「なぁ、あの931小隊とかいうやつら、本当に信用していいのか?」


「何言ってるんだよ。人間が3人もいるんだぞ? 信用できるわけないだろ! 総隊長もどうかしてる。 マルクスさんもあんなに怒ってたのに……」


「だよな……今夜は銃が手離せないな。何かあったら、すぐ撃ち抜いてやる」


「……」


 警戒感むき出しの会話に、カレッジは少し悲しい気分になった。だが、ジュインはこう言って励ましてくれた。


「いきなり信頼を築くのはきっと難しい……ですが、誠意を見せればみんな心を許してくれるはずですよ」


「そうだよね、やっぱり言葉より行動で示すことが重要だね」


 ジュインの側にくっついているクルムも、微かにカレッジのことを警戒していた。が、姉と親しく接する姿を見てからは、落ち着いている。


 ネバーフォレストでの新たな生活。果たして、931小隊は無事に移動手段を確保し、ノアーズシティへたどり着けるのだろうか?


 ――静かに揺れる森の木々は、931小隊の動向を監視していた。


 第3章「生き延びし永久の(とわ)の森」完


 次章「獣の嘆きと風の知らせ」


 ――To Be Continued……

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