第6話「永遠(とわ)に続く森」

――燃えるような朝日が、森の木々を照らしていた。


 村の建物にも輝かしい日の光が差し込み、住民たちの意識を深い眠りから微睡みへ移し始める。


 そして931小隊の面々も、徐々に目を覚ましていった。


「ん……朝か……」


 カレッジはベットの上で重い瞼を擦った。外では小鳥の囀りが木霊している。これも、エデン地区では考えられないほど清々しい朝だった。


 よろよろとベットから起き上がって、身支度をする。冷たい水で顔を洗うと、ぼやけていた視界がキリッと広がった。昨日の疲労もすっかり取れている。


 服を着替え終わると、カレッジは部屋を出た。すでに外にはジュインを除いた931小隊の面々がカレッジを待っていた。


「おはようアンジェラ……」


「カレッジ、よく眠れたか?」


「すごくスッキリしたよ。疲れは取れたね」


「エデン地区がどれだけ荒廃してたか、思い知らされたな」


 アドナが苦笑いしながらそう答えた。


「ティム君の容態はどうなんですか? 重傷じゃなきゃいいのですが……」


 ゲイルがアドナに訪ねると、アドナは真剣な表情で話し始めた。


「ティムならアイリスと村の医師が手当てしてくれたおかげで、なんとか無事だ。しばらく休めば良くなるだろう」


「そうですか、無事で済んで安心しました」


「よかった。あいつ無しじゃここまでこれなかったし、心配してたんだぜ?」


 マグノリアもティムの無事を知って少し安心したようだ。


「みんな、どうもあのソフィアという方から朝食後に話があるらしい。兵舎の食堂で食事を出してくれるそうだから、みんなで食べてから行くとしよう」


 アンジェラに言われ、みんなは兵舎の中にある食堂で朝食を取りに向かった。既に何人かのダアト人の住民が朝食を取っており、彼らは931小隊の様子を離れた所から恐る恐る伺っていた。


 カウンターへ向かうと、調理員と思われるダアト人の少女が迎えてくれた。10代ほどの、背中に少しオレンジっぽい色の鳥の翼が生えた小柄な少女。おそらくベヌウ族だろう。


「おはようございます! ゆっくりお休みになられましたか?」


 彼女からは、他のダアト人たちのような怯えは見受けられなかった。むしろ、931小隊の隊長たちを明るく受け入れてくれる笑顔が光る。


「ああ、とてもいい部屋を使わせてもらったから、それはもう最高だったよ」


「そうですか! それはよかったです!」


「あ、私ここの食堂で働いてるモニエといいます。えっと、あなたたちは……?」


「私はカレッジ。エデン地区治安維持部隊931小隊の指揮官だ」


「エデン地区の……! あんな大変なところから来られたんですか? よくご無事でしたね……」


「まぁ、危険なことには慣れてるからね」


 しばらく談話をした後、みんなはモニエから朝食を受け取った。ホカホカの柔らかいパンに、野菜がたっぷり入ったコンソメスープ、そしてベーコンとスクランブルエッグ。すごいボリュームに皆は目を丸くした。


「こんなにたくさん……本当にいいんですか?」


「もちろんです! いっぱい食べてくださいね!」


 モニエのにこやかな笑顔が光った。931小隊は美味しい朝食に舌鼓を打ちながら、ありがたくいただいた。


「ごちそうさまでした!」


「うまかったなぁ……こんなのが毎日食べられたら幸せなんだが」


 マグノリアがそう呟く。悲惨なエデン地区の食糧事情から見れば、そう言いたくなるもの自然だった。


 「さて、じゃあソフィアさんの所に行こうか」


 「ソフィアさんなら、村中央の建物にいると思いますよ!」


 「ありがとうモニエ。君は優しいね」


 「えへへ……そうですかね? とにかく、お気をつけて〜」


 朝食を終えて931小隊はモニエが教えてくれた建物へ向かった。村のシンボルとも言えるその大きな建物は、森の奥深くに建てられたとは思えないほどしっかりした作りであった。


 「ここかな、ソフィアさんがいるのは」


 「あ! マスターさん! ジュインさんがいますよ!」


 ジュインはすでに、建物の前にクルムと共に彼らを待っていた。しかし、隣に並んだ2人を見ると瓜二つで、本当の姉妹であることが伺える。


 「マスター! おはようございます!」


 「おはようございます……!」


 「おはよう。ジュイン、クルム。ソフィアさんはこの中に?」


 「はい。奥の談話室に来るように言われました」


 「よし、それじゃあ行こうか」


 931小隊は指定された談話室へと足を運んだ。途中、村人たちの視線は人それぞれだった。警戒し、恐れる者、なにか目の敵のように鋭い視線を浴びせる者、また好奇心を感じられる者。なぜかわからないが、雰囲気が人によってまるで違うように見えた。


 「失礼します」


 「来たか。入ってくれ」


 ドアをノックして、カレッジたちは慎重に中へ入った。部屋には椅子に座っているソフィアと、側近と思われる人が側に控えていた。


 「さぁ、座ってくれ。腰を掛けて話そう」


 「わかりました」


 みんなが用意された席へ座る。全員着席すると、ソフィアは軽く咳払いをして話し始めた。


 「さて、では改めて『ネバーフォレスト』の中心『ブラキストン村』へようこそ。931小隊の諸君」


 「私はこの村の村長兼、ゲブラー・エクエス峻厳の騎士団の総隊長……『ソフィア・シェティ』だ」


 「ネバーフォレスト……? ゲブラー・エクエス……?」


 知らない単語に首を傾げるカレッジ。すると、アンジェラが彼に耳打ちをした。


「私も噂程度にしか聞いてないから定かではないが、ゲブラー・エクエスはダアト人のための権利回復組織……だったはずだ。エデン地区での活動を垣間見たことがあったからな」


「ネバーフォレストについては……すまない、私もよくわからないな。おそらく、この森の周辺地域の名前だろうか?」


「その通り。よく知っているな」


「っ!?」


 微かな小声で話していたアンジェラの声をしっかりと聞き取ったソフィアに2人は冷や汗をかいた。マール族の聴力の高さに驚かされるばかりである。


「隠し事なんてしなくていい。堂々と話してもらえるか?」


「ええ……わかりました」

 

 ソフィアは微かに笑みを浮かべて、話を続けた。


「ここネバーフォレストは、第三次世界大戦の戦火と環境汚染の影響を受けずに残った、いわば『奇跡の土地』だ。土も、水も、空気も、すべてが澄んでいる。かつての地球の森の姿と言えるな」


「……そして、人間に迫害されて土地を追われたダアト人が身を寄せ合い、ダアト人だけの楽園を作った……それが、ここブラキストンということだ」


「そうして我々ゲブラー・エクエスは蔑まれ、苦しむダアト人を救済するべく、ここを拠点に活動している」


「そうだったんですね……」


 カレッジたちはようやく合点のいったような表情を見せた。あまり良い顔をしないダアト人の住民が多かったのも、きっと過去に純粋な人間から受けた恐怖やトラウマがあるのだろう。


「とまぁ……我々についてはこんな所だ。次は、君たちについて教えてくれないか?」


「わかった、我々がここに来た経緯を話そう」


 アンジェラがカレッジの代わりに、ここに来るまでの経緯を話した。エデン地区で治安維持組織インターセプトの部隊として活動していたこと。トリニティ医師団から、ノアーズシティにある本部へシャードニウム中毒の治療薬を届けてほしいと依頼されたこと。そして旅の途中、山賊に襲われてこの村に逃げ込んだこと。すべてを話した。


 「なるほど……かなり大変な道のりだったわけだな」


 「ええ。壮絶な日々でした……」


 「それで、シャードニウム中毒に効く薬をトリニティ医師団から預かったと聞いたが……それは本当なのか?」


 「はい。PSCA-7というキレート剤です。まだ試作品なので、副作用が強いそうなんですが……」


 アイリスがサイドバックに入れているPSCA-7を確認して呟いた。ソフィアはそれを聞いて、何か物思いにふけていた。


 ――その時だった。


 「おいティナ! どういうことだ! なぜここに人間がいる!」


 「マルクスさん、落ち着いてください。ソフィア総隊長が迷い込んだ彼らを助けたんです。あの人たちは敵ではありません」


 「なんだと!? 裏切り者が……! この村にダアト人以外の者を入れるなと、あれだけ抗議しただろ! また過ちを繰り返させる気か!」


 突然談話室に、しかめ面で怒鳴る男性が押し入ってきた。ソフィアの側近と見られる少女がなだめるも、その怒りは収まらない。


 931小隊は、緊張した様子で言い合いを傍観していた。

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