第2話「長い旅路」

 乾いた風が大地を吹く朝、931小隊は瓦礫の側に建てたテントから出てきた。今日もまた、ノアーズシティを目指して旅を続ける。


 みんなでテントを片付け、また装甲車に搭乗した。


 「今日も100km以上移動するぞ。そうすれば明日にもレガリアを中継できる」


 「ティム、運転頼むぞ」


 「はい! んじゃ出しますねアドナ隊長!」


 装甲車のエンジンが高鳴り、大きな音を出して進み始めた。荒れ果てた道を砂埃を上げて突き進む。


 暫く進むと、段々辺りは山脈に近づいていた。ゴツゴツとした岩肌が遠くに見える。


 やがて山脈の影が大きくなり、道はゆるやかな上り坂へと変わっていった。岩肌の合間に細い砂利道が伸び、左右には崖や切り立った斜面が迫る。


 「おいティム。燃料、残りどれくらいだ?」アドナが隣の席から声をかける。


 「予備タンク込みで……あと二日分くらいっすね。山道だと燃費が落ちるから、余裕はないですけど……」


 ティムが計器をちらりと見ながら答えた。そこそこの人数を乗せて、弾薬食糧などを沢山詰め込んでいるせいで燃費が少し悪くなっているからか、ティムは内心ひやひやしていた。


 「こっちは少ないな……足りればいいけど」


 ルカがサイドカーのタンクを叩きながら眉をひそめる。拡張していてもやはり不安だ。


 山岳地帯に入ると、これまで見慣れた錆びたビルの鉄骨や枯れた木々の風景が少しずつ変わっていった。酸性雨に焼かれた黒い大地の隙間から、小さな緑が顔を出す。


 「……あれ、木だ」カレッジが窓から身を乗り出す。


 細く痩せた幹に、まだら模様の葉をつけた樹木が何本も立っていた。枝先は風に揺れ、わずかな生命の匂いを運んでくる。


 「この辺りは酸性雨が届きにくいのかもしれませんね」ジュインが小声で呟く。


 緑が見えるだけで、車内の空気は少し和らいだ。ジュインも頬を緩め、外の景色を目で追っている。


 しかし、山道は油断を許さなかった。辛うじて残っていた舗装はとうに失われ、深い轍と崩れた岩が進路を塞ぐ。何度も速度を落とし、時には全員で降りて岩をどけなければならなかった。


 「……やっぱり時間かかるな。今日中に峠を越えるのは無理だ」アドナが地図を見て判断する。


 夕暮れが近づき、山影が長く伸びていく。気温はぐっと下がり、息が白くなるほどだ。


 「この辺りで野営しよう。谷間なら風も弱い」


 そう言ってアドナは適当な開けた場所を見つけ、装甲車を止める。ルカもサイドカーを並べ、二台を風避けにする形でテントを張り始めた。


 マスターは小枝を集め、ジュインは食料の袋を確認する。ティムは水タンクの残量を見ながら、明日の配分を計算している。


 夕日が山の端に沈み、橙色の光が最後の木々を照らす。その静けさの中――


 (パンッ!)


 乾いた銃声が響き、岩壁に弾が弾けた。


 「伏せろ!」


 アドナの声と同時に全員が地面に身を投げる。


 どこから撃たれたのか、まだわからない。風が止まり、山の夜の冷気だけが肌を刺す。


 次の瞬間、谷間に再び銃声が木霊した。

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