第3話 『気まずい笑顔』

久しぶりに、外で会うことになった。

「そういえばデートっぽいの、いつぶり?」と彼女が笑ったとき、僕は「たしかに」と返すしかなかった。


街はすっかり春めいていて、薄手のコートで歩くにはちょうどいい気温だった。並んで歩いているのに、心の距離が少しずつずれているのがわかる。すれ違った人の会話がやけに耳に残って、ふたりの間の沈黙が、いつもより濃く感じられた。


「行ってみたかったカフェがあるの」

彼女が言って、スマホで地図を開いた。

その姿を見て、僕はなぜか安堵した。誰かが何かを決めてくれるのが、ありがたかった。


カフェはこぢんまりとしていて、内装は温かみがあった。木のテーブルに座ると、彼女は季節限定のイチゴのスムージーを頼んだ。僕は無難にホットコーヒー。


「おいしい」

彼女はそう言って写真を撮った。僕にも「撮る?」と聞いたが、「いいや」と断った。

なんでもないやりとり。以前だったら、もっと笑ってたかもしれない。でも今は、互いの笑顔がどこかぎこちない。


「ねえ」

少しして、彼女が口を開いた。

「うちらって、なんで付き合ってるんだろうね」

冗談めかした声だったけど、目は笑っていなかった。


「……なんでって、別に、嫌いじゃないから」

言ってから、自分でも情けなくなった。

でも、他にどう言えばよかったのか分からなかった。


彼女はスムージーのストローをくるくると回しながら、「そっか」とつぶやいた。


そのあと、街をぶらぶら歩いた。古着屋に入って、映画館の上映時間を覗いて、結局どこにも入らず、ただ歩いた。少し肌寒くなってきた空気の中で、僕らの会話は続かなかった。


駅までの道、ふたりともスマホを見ていた。

「じゃあね」と手を振った彼女の笑顔が、少しだけ泣きそうに見えた気がした。


僕は手を振り返して、言葉を飲み込んだ。


やっぱり、気まずい。

でもそれを壊す勇気も、まだなかった。

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