第23話 核を砕き、龍が舞う



 村⼈たちは、祭事の会場に残り、事態の収拾を⾒守っていた。⻯の出現、祭事者の不在と、⼤量の兵⼠が出陣したこと。現場は混乱を極めていた。


 その場所へ、慌ただしい⾜⾳が近づいてくる。⼀⻫に正体を確認しようと動くと、⼀同、目を⾒開いた。

 

 それはこの事態を引き起こすきっかけとなった、⼀⼈の⼦供であった。


「み、みんな、逃げてくれ!」


 ゼルコバが村⼈の避難を促している間、戦いの場も動きを⾒せていた。


「おい、こっちだ!」


 地⾯に落ちていた⽯を投げたのは、アーノルド。⼤蛇は対象を彼にして、⾃⾝の⽛で貫こうとした。  


 しかし、⼀瞬にして彼の姿はいなくなる。瞳で捉えることを諦め、匂いで探ろうとしたとき、アーノルドの気配が近くになかった。


 ⼀体何が起きていると⼤蛇の動きが⽌まる。胴体に痛みが⾛り、呻き声をあげた。

 ⾒れば、剣を突き⽴てる彼がおり、即座に絞め殺そうと、⾝体を巻き付ける。


 そしてぐっと相⼿の息の根を⽌めようとしたが、なぜか⼈間の⾝体を絞めている感覚がない。いるのは、⼤蛇の胴体を⽌まり⽊にした⿃がいた。先ほどのアーノルドは、シャノン様が化けていたのだ。では彼はどこへいったかのか。

 

「うおおおお!」


 真横からその声が聞こえた時には、もう遅かった。隙を伺い身を隠していた本物のアーノルドによって、⽚目が斬りつけられ、痛みでのたうち回る⼤蛇。


 体勢を崩した⼤蛇へ、海から⼤波が起きる。

 それは⼤蛇へに降りかかり、胴体が霧散して、胴体が解けていくように⿊い塊が⽔に押し流された。


 無論、これは⽔⻯の⼒であった、空中にいた彼⼥は、なるべく地上に近づこうと、低空⾶⾏を始める。ある程度の距離になると、背中に合図を送った。


「オークス!」 


 ⾶び降りていく彼は、⽚⽅の瞳の⾊を変え、⽔に照り付ける⽇の光によってきらりと輝いた。胴体が崩れ、中⾝にあった⼀際⼤きな塊がドクンと⿎動のように動いている。


「そこか!」


 落下の速さを利⽤し、そのまま剣を突き⽴てる。すると、固い鉱物のような何かに剣先が当たった感触があった。わずかに割れる⾳が聞こえたと同時に、⼤蛇は形を完全にやめ、⿊い塊が辺りに散った。


 これで、終わったのか。


 そう思ったのも束の間、何故か⿊い塊がもぞもぞと動き出す。そして、再び⼈型となり、僕らに襲い掛かろうとした。


「核を壊したら終わりじゃないのか!」


『そのはずだ、だが何か別の者が⼿を加えたのか。こいつらは、普通の異形ではない!』


「普通も、そうじゃないもあるか!」


「とにかく、倒すの。」


 シエナはもう⼀度、⽔⻯の⼒を使おうと構え、シャノン様はいつもの⿃の姿へと変える。そして僕も剣を構えて、攻撃に備えた。


 やれるだろうか、異形との戦いで疲弊している僕らと、⻯神様が倒してくれた⼤蛇より、⼀回り⼤きい相⼿。

 でも、やるしかない。そう覚悟を決めた時、空が光った。


 地⾯が揺れるほどの衝撃と、強い光に目をつぶってしまう。


 だが、ゲイル様から与えられた瞳で⾒たのは、⾬の⽇⾒た、僕の夢だった。



 空に浮かぶ⼤きな存在は、⼤蛇に雷を落としていく。


 ⾃然と涙がこぼれる。


 開いた⼝にしょっぱい味がしようが、僕はじっと目を離さなかった。全てを倒したその存在は、こちらを⼀瞥する。


 ⾝体が固まったわずかな時間、されど僕には永遠にも思えた。


 雷が⽌み、⾬が上がった時にはそこには何もいなかった。


「あれは…。」


「⻯だ、間違いない。」


 誰かがそういう前に、僕は確信をもってあの存在の正体を告げた。本当にいたんだ、憧れた存在はそこにいたのだ。


 これで本当に戦いが終わり、ほっと肩を撫でおろしたり、すぐに治療を始めていたりとしている人々がいる中、僕は⼀⼈空を⾒上げた。


 晴れ渡る空、ついさっきまで雷⾬があったずっと憧れていた伝説が、そこにいた。

 

 小さい頃からの夢がかなっただけど、僕は、あの⻯と再び巡り合えることを望んでしまうのだ。


 我儘だろうか、でも強い意思によって決断されたそれを、僕は大切に心にしまった。

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