第22話 無垢なる悪意の微笑

 剣先が奴の⾝体に刺さる前に、地⾯から盛りあがった⿊い塊によって、阻まれたのだ。


 そして、その塊の上に、ひょいと⽚⾜のみで乗り、こちらを⾒下ろすのは、少年の風貌をした誰か。


 突如現れた子供は、キョロキョロと辺りを⾒回し、やがて後ろに⽴つとギードを目にいれた。


「おじさん、殿下がお呼びだよぅ !」


「はぁ?お前…、なぜここに。」


「ほらほら、おじさん。さっさといかねぇと、殿下がお怒りだよぅ 。」


「ワタシは、やるべきことがある。お前なぞに命令される覚えは。」


「うんうん、素直でよろしい!」


 反論するギードを他所に、空中に⿊い渦を⽣み出し、そこへと奴の⾝体を放り込んだ。両⼿を払って、まるで⼀仕事終わったと⾔わんばかりに、額を腕で拭う。


 すると、そこでようやく僕らに注目したのか、にこりと⼈が良さそうに笑った。


「やあやあ、皆さまお揃いで、⾒事に⼈間が全然いないね。⻯神の気に⼊りと実験体、あと⻯の使いが⼆⼈か…。」


 ⻯神の気に⼊りをシャノン、実験体をアーノルド、そして⻯の使いと僕たちを指さしながら、話す彼は笑い声をあげる。

 それから、⽮継ぎ早に言葉を発し始めた。


「ははは!いくら死んでいるからっ て、元々⼈間だった奴を殺せるなんてすごいね。うんうん、やっぱり⼈でない者は、⼼も⼈じゃない。でも、それでいいよね。⽣きてるだけで、ラッキーなんだから。殺しにかかっているのは奴らだ。なら倒さないと、容赦なく、息の根を⽌めないとね。」


 この状況を楽しんでいるように、からからと⽴て続けに⽂字を⼝にする彼は、⼀⽅的に話を続ける。  

 その間に、懐にあった瓶を開けて、どういう原理か分からないが、⿊い塊を瓶の中へ吸収していく。


「何を言って…。」


 丁度、アーノルドがそう⼝にしたとき、瓶を閉める⾳がした。


「あぁ喋りすぎて、喉乾いた。帰りましょうと。」 


「待て!!」


 呼び⽌めるも、ひらひらと⼿を振って、再び⿊い渦を作り出した。渦へと⼊るために⼀歩進んだと思えば、そこで⽴ち⽌まる。

 そして今度は、悪だくみを思いついた⼦供らしい笑みで、今集めた瓶ではなく、新たに取り出した中⾝の詰まった瓶を地⾯に向かって投げつける。

 

 瓶が激しい⾳をたてて割れると、中から出てきた⿊い塊が先ほどの⼤蛇に姿を変えた。


「ごめぇん、落としちゃった。でも、強いんだから、こんなのちょちょいのちょいでしょ?ははは、じゃあよろしくねぇ。」


 ⾔い残した彼は、さっさと渦の中へと姿を消す。とんでもない置き⼟産を残していったまま、⽴ち去った彼に苛⽴つアーノルド。


『皆、集まってくれるか。』


 シャノン様は僕の腕にとまり、光で虹⾊に映る翼を広げた。

『奴は、異形の集合体。⾸を斬ろうが、胴体に剣を突き⽴てようが、死にはしない。全⾝を⼀気に消滅させるくらいのことをせねば倒せん。それ以外の⽅法は、ただ⼀つ、核を砕くのみ。』

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