第17話 勝利の証と旅立ち

荒くなる呼吸で、心臓の鼓動が早くなる。集中しろ、剣をもて。何か、何かあるはずだ。諦めるな!


『『オークス!』』


 刹那、左目が熱くなる。


 そして、次に開いたときには、なぜか視界が薄暗く、ゆっくりに見えた。相手の重心が右にずれ、踏みしめる。覚悟を決めて、攻撃が来ると同時に、そこに僕は———飛び込んだ。


「おっ?」


 当たれと、決死の思いで振った剣に感触があった。確かめる前に、勢いが止められず、顔面からいった。鼻頭が熱くなり、拭ってみると鼻血を出ている。


 そうだ、決着は!後ろを向けば、そこに仁王立ちになっているゲイル様。もしかして…駄目だったのか?


「全く、そんな勢いで突っ込んだら、怪我も増えるだろ。」


 ひょいっと、僕の脇に手を入れて、持ち上げる。宙ぶらりんになるがまま、運ばれていき、木の幹に下ろされた。


 アルバが近寄ってきて、ハンカチを差し出してくる。シャノン様は僕の頬や髪をべたべた触り、他に怪我がないか心配していた。


 それよりも今は、結果である。


「決着は、どうなったんですか!」


「待て、落ち着け。」


 急く気持ちと共に前かがみになっていたのか、ゲイル様は肩に手を置き、僕の背中を木の幹につけさせた。しゃがみこみ、僕の目線の高さに合わせて、にこりと笑いかけた。


「お前の勝ちだ。」


 腕に残る真新しい傷、それは間違えなく、僕が当てたもので……。


「やっ——。」


【すごい!やった!】


「ぐはっ!」


 横から突進してきたアルバによって、喜びの声は防がれてしまう。だけど、悪い気はしない。シャノン様も頭を撫でて、僕を労った。


「心配させて、ごめんなさい。」


「本当だ。でも、凄かった。坊や自身で勝ち取ったものだ。…そうか、オークスが選ばれたのか。」


 優しく撫でる手は、ふと竜の方に同じようにされた思い出がよみがえる。シャノン様が来てくれてよかった。一人だったら、もう一度現世に帰ることに迷いがなくなることはなかったから。


「さてと、戦いも終わったことだ。支度は万全か?」


 ゲイル様は立ち上がり、懐から煙草をつけてふかし始める。アルバも抱擁を解き、名残惜しそうに、離れていった。鼻血も止まり、今度こそ僕は現世へと向かうのだと、拳をつくる。手にもっていた剣をゲイル様へと返す。


「はい、この命だけですから。」


「かかか!それだけじゃないだろ、剣も持っていけ。」


「えっ、でも!」


「勝者には褒美がなくちゃ、だろ?それに、元々お前のために用意したものだ。」


 僕のために、作ってくれた?鞘に納められたそれを、見下ろす。


【僕が手入れをしていたんだ。方法も書いた紙、渡しておくね。】


 剣を握る力が強くなる。本当に、嬉しい。ただそう思った。


「オークス、準備できたよ!」


 剣を腰に固定し、アルバの手入れメモをもらったあと、川辺で作業していたシャノン様の声が耳に入る。

 すぐに僕は答えられなかった。目からこぼれる涙を見せたくなかった。それだけじゃない、僕は——。


 ふうと煙草の煙がふきかけられる。吸い込んでしまい、手で押さえて口を押える。


「げほげほっ。」


「かかか!ほら、さっさと、いってこい。」


 あぁ、道は絶たれてしまった。残念に思う気持ちもある。でも、はっきりと言ってもらえて、むしろありがたい。


「ありがとう、ございました。」


 深々と頭を下げてから、顔を起こし二人の姿を脳に焼き付けた。


【頑張って、次来たら帰さないかも。】


 あやしく笑う、明るくいじわるな新しい友達。


「もうしばらくは来るなよ。いっぱい、色んなことを見てこい。そして、勝てよ。」


 僕の背中を押してくれる頼りになる、師匠。


「はい!…さようなら!」


 後ろ髪を引かれる思いがしようと、もう振り向かない。僕はシャノン様の手をとり、川へと飛び込んだ。

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