第35話 娘からの電話

 娘「ママも見てた?」

 私「うん、今年はちょっと奇抜で面白かったね。でも舞台衣装が気に入らなかったんじゃない?」

 娘「そうなの。がっかり。いつもならもっと綺麗な色のドレスで踊るのに。今年は地味でつまんなかった。」

 私「そう言うと思ってた。でもあの最後の曲は面白かったでしょう?」

 娘「そうなの!あの人たち、交際五年目なんだって、さっきネットで調べちゃった。」

 私「ああ、やっぱり。ステージでいきなり走って行って、ほっぺにキスしてたから、そうじゃないかと思った。」


 この会話だけを読んだら、まさかウィーン・フィルのニューイヤーコンサートの話だとは思わないに違いない。娘はこの手の音楽に興味はなく、毎年バレエが見られるから、その衣装を見たくてバレエが始まったら呼んでと言ってそれまで大抵別な事をしている。今年は私の義弟の家で義母と一緒に見ていたようだった。


 公演時間は実質2時間半、ワルツとポルカ三昧のクラッシック音楽のライブコンサートだ。観客はドレスアップしていて、着物をはじめ各国の民族衣装も目立つ。お正月にわざわざウィーンまで出向いてあのキラキラのホールで元旦に『美しき青きドナウ』を生で聴きたいというお上品な人々だ。


 今年の指揮者、ヤニック・ネゼ=セガン氏は私が聞いていた解説によると、神童のようなデビューを果たしたカナダ人の指揮者で、その実力は飛ぶ鳥を落とす勢いらしい。小柄だがとても存在感があって、見るからに明るく人気者タイプだ。とても今年五十歳には見えない若々しさで元気よく指揮をしていた。


 選曲もいつもの年よりもテンポの速いものが多かったせいでかなり盛り上がり、最後の曲の後はスタンディングオベーションだった。


 お決まりのアンコールもお茶目で、『美しき青きドナウ』の演奏をイントロで止めて、

「心配しないで下さい。ちゃんと続きを演奏しますから。」

 とジョークを飛ばしていた。


 ケベックの人らしく、フランス語でスピーチをしていたが、毎年恒例のあけましておめでとうはドイツ語でこなしていた(毎年見ているので分かる。)。あいにく私はフランス語が出来ないので、解説者が通訳してくれるまで何を言っているかは分からなかった。


 このヤニックさん、いきなりビオラ奏者の男性のところに走って行ったかと思ったら、ほっぺにチュッとキスしていた。娘がピピっと来て、この二人は付き合っていると睨んでネットで調べたらしい。我が娘ながらスルドイ。実際にこのヤニック氏、そのビオラ奏者の彼とお付き合いをしているらしく、交際五年目。世界125ヵ国に生放送されているという大掛かりなクラッシックのコンサートでの出来事としては椿事だった。


 もちろん日本でもNHKで元旦の夜に放送されていた。これを読んでいる方の中で見ていた方もいるかもしれない。(興味のある方はNHKで恒例アンコール、ラデツキー行進曲をご覧ください。)


 一年のスタートにふさわしい元気なコンサートだった。そしてビオラの彼とこれからも仲良く幸せでいてほしい。

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