第6話 不安と疑念
期末テストの結果は、クラスの空気を決定的に変えた。
学年1位の橘さん、2位の秋原くん。
彼らの実力は誰もが認めるところとなり、クラス内の雰囲気は大きく変わった。
私と真吾くんがこれまで享受してきた「クラスの中心」という地位は、もはや幻想だった。
真吾くんは、信じられないといった表情で悔しさを露わにしていた。そして、私の心には、言いようのない焦燥感が渦巻いていた。
そんな中、私はまた、クラスメイトたちのひそひそ話を聞いてしまった。
「ねぇ、知ってる? 橘さんのあの変な噂、野中さんが言いふらしてたらしいよ」
「え、マジで!? あの『先生と不適切な関係』ってやつ?」
「うん。なんか、中学の時、野中さんが好きな先輩が橘さんのこと好きで、それで橘さんが振ったから、腹いせに野中さんが流したらしいって話だよ」
「うわー、最低じゃん……。それで橘さん、あんなに辛い思いしてたのに」
「だよね。しかも、あの学年1位と2位の発表の後も、ずっと橘さんのこと悪く言ってたし。信じられない」
その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中は真っ白になった。
噂の出処が、野中さんだったなんて。
そして、私は、その噂を信じて、秋原くんに「橘さんと関わらない方がいい」なんて忠告してしまった。
私の心臓が、ドクンと大きく鳴った。
罪悪感と、後悔の念が、私の心を蝕んでいく。
野中さんが、嫉妬からそんなひどいことをしていたなんて。そして、私は、その悪意に加担してしまっていたのだ。
その日から、クラスの女子グループの中心だった野中さんの立場は、完全に逆転した。
橘さんが実力で勝ち取った学年1位の事実が、橘さんに関する噂が嘘であったことを証明したこと、そして、その噂の出処が野中さんであるという真実が広まったことで、クラスメイトたちは野中さんを避けるようになった。
以前は彼女の周りに集まっていた女子たちも、今は誰も寄り付かない。野中さんは、教室で一人、孤立していた。
彼女の顔には、屈辱と、そして深い傷つきの色が浮かんでいるのが見て取れた。
私は、野中さんのその様子をみて、恐怖を感じた。私や真吾くんが野中さんの噂を信じ、それを広めてしまったことを、クラスメイトたちは知っているだろう。
真吾くんは、相変わらず強がっているけれど、彼の表情には焦りが見える。
私と真吾くんの間には、目に見えない亀裂が、さらに深く入り込んでいることに、私は気づき始めていた。
夏休みに入り、真吾くんとの関係はさらにギクシャクしていった。
彼は、私といるときもどこか上の空で、スマートフォンばかりいじっている。
デートをしても、すぐに家に連れ込まれ、体を重ねるだけになっていった。
キスをしても、体を重ねても、以前は体から溢れていた真吾くんに対する温かい気持ちが、全然湧いてこない。
時折、真吾君が、他のクラスの可愛いと評判の女子生徒をちらちらと目で追っているのを目にした。最近、私とは目も合わさなくなっているのに。
彼は、私のことも、結局は見た目でしか見ていなかったのだろうか。今、私と付き合っているのも都合よく性欲を解消できるからなのだろうか。そんな真吾くんに対する疑念が、私の心に募っていく。
そんな真吾くんとは対照的に、優斗くんと橘さんが、夏休み中も一緒にいるところを頻繁に目撃した。
カフェで勉強したり、楽しそうに話しながら歩いたり。
二人は目を合わせて、微笑み合っている。
彼らの間には、今の私たちにはない、確かな絆と信頼が築かれているのが、私には痛いほど分かった。
彼らが輝けば輝くほど、私の中に、言いようのない焦燥感が募っていく。
私の心の中で、真吾くんと優斗くんの評価が、少しずつ逆転していくような、そんな奇妙な感覚に襲われていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます