2話 地理説明回

 四年目の期間毎のお休みの時は、アイテール君とお出掛けすることが多くなった。


 アイテール君が町の外に連れ出してくれる。

 泊まり掛けになったりするから、初めは父さんや母さんに渋い顔をされたけど、学校を修学したら結婚します、ってことで落ち着いたようだ。


 順調にいけば三年後だ。

 十四才……結婚って十五才からだから一年は修行ってことかしら?

 そっかあ、私、アイテール君と結婚するのか。

 と、他人事のように納得した。



 世の中はまあるい地表が均等に六分割されて、街がある。

 街には更に十二の町がある。


 私たちの住む街は『メルクの街のマルトロ町』


 リツキ君は『バンドの街のヤヌアロ町』からやって来たらしい。


 じぎょうかくだいの為らしいけど、メルクの街はメルクリオス家の力が絶大で、中々上手く行かないらしい。


 商家は各街に一件ずつあって、その街を便利にするために頑張っているらしい。

 本当は、ふかしんじょうやく?とかあって、本来はよその街でじぎょうかくだいとか余りやっちゃいけないみたい。


 なら、なんでアイテール君家はそんなことするの?って訊いたら、笑って話してくれなかった。

 うく~。



 地表の周りには、海っていう水がある。

 果てが有るのか未だ分からないらしい。

 でも、水があるのだから果てや底は在るだろうって。

 世の中って不思議だ。



 メルクの街のデツンブロの町に連れてきて貰った。

 海の見える町。

 何処までも水があった。


 アイテール君が、蒼い石の付いた首飾りをくれた。

 こんな高価なもの貰えないよって遠慮したら、

「君はお姫様なんだからいいんだよ」

 って、言われた。


 お姫様って、高価なものを貰える人の事なの?って訊いたら

「大事な人の事だよ」

 って、頬に口付けされた。


 突然の事に吃驚して、馬鹿みたいに呆気に取られていた。

 呆気に取られていたら、唇に唇が触れた。

「僕の可愛い人」

 って、抱き締められた。


 頭がじんじんして、顔が丸焼けになったみたいに熱かったけど、首飾りの蒼い石も、同じくらい熱くなった気がした。



 アイテール君の金の髪が揺れる。

 隙間からお日様が零れてきらきらしてる。

 蒼い瞳が、海みたいで。

 海みたいで。



 ………ダカラナニ?

 何!



 帰りの車の中で居眠りしていたら、体が痛い。

 アイテール君は隣で寝てる。

 あ。

 手、繋いでたんだ。

 少しずつ大人になりつつある、私より固い手。

 私より少し冷たい。

 でもそれは熱を帯びた私には心地よかった。



 マルトロの町に戻ってから、アイテール君と婚約をした。

 と、言ってもアイテール君のお父さんとお母さんと、私の父さんと母さんでお食事をしただけだけど。

 アイテール君のお母さんから早くお家にいらっしゃいねと言われて、母さんからいっぱいお勉強しなきゃね、て言われた。


 何だろう。

 嬉しい筈なのに。

 喜ばなきゃいけない筈なのに。

 指の先に刺さった、小さな刺みたいな痛みがある。


 コレデイイノ?

 何!



 五年目の初期間にミリア・メルクリオスという少女が同じ級にやって来た。

 メルクリオス家の一人娘。

 五つ下なのにずば抜けて優秀らしい。


 そんなに仲が良いというわけでもないけど、王子様ってなれるの?って、訊いてみた。


 彼女はじっと私の顔を見て言った。

「単純に、結論から言うと無理」


 何故?

「ここは王様がいないから」


 おうさま?

「国…ここでは街が近いけど、誰か一人がまとめていると云うことではないでしょう」


「街長さんは違うの?」

「う~ん…違うな。街長さんには権力は無いし。寧ろ商家の方が近いかも知れない。」


「では、メルクリオスさんは王様なの?」

「違うわよ。たしかに人の生活を便利にしようとするのは、このく……じゃない、この街では商家だけど。一見似ていても、王様は“命令”して他人にやらせるけど、商家は“提案”して自分たちでやるの。……ま、それだけでもないけどね」



「へえ~。で、王様が居ないと王子様になれないの?」

「王子様は王様の子供ってことよ」


 ほう!そっか。

「でもね、王様も、特別偉い人とかいないのに平和に便利に暮らせると言うのは良いことなのよ。宗教と戦争が無くて、貧富が無くて、そう言えば政治も無いのね……」


 しゅうきょう?せんそう?

「そんな下らないことは知らなきゃ知らない方がいいわ」

 メルクリオスさんは悲しそうな顔をした。


「で、貴女が王子様になるの?」

「ううん。アイテール君が王子様で、私はお姫様なんだって」

「絵本の中みたいなことかな?幸せに暮らしましょうって事なんじゃないかしら?」


 ほう!

 なんか、ちっさいのに物知りだねーて言ったら、私が知ってるのは知ってることだけだよ、って返ってきた。



 メルクリオスさんとはその一期間だけ一緒にいたけど、次からは下の級に戻って行った。

 お勉強は凄く出来ていたのに、もっと勉強したいからと言うことだった。


 でも、メルクリオスさんがいるときは、アイテール君も私も、一回も一番になれなかった。

 アイテール君がメルクリオスさんを凄い目で睨んでいたことがあったけど、多分黙ってた方がいいんだろうなって思った。


 メルクリオスさんと級が別になってからのアイテール君は、いつもニコニコしてる。


 でも、何かお面を被ってるみたいだ。

 前みたいに、優しい笑顔を見せて欲しいな。

 私にはアイテール君が、壊れた人形のように見えた。


 アイテール君のお父さんが死んだらしい。

 じぎょうが失敗したって。

 元々、バンドの街でも失敗してたらしい。

 じぎょうかくだいではなくて、しんきさんにゅうで、アイテール君のお家はメルクリオスさんのお家が助けてくれたらしい。

 難しいことはよく分からないけど。


 六年目の進級のお祝いの会に、アイテール君は居なかった。

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