附属小詰散文始(ふぞくこずめのさんぶんし)
─もしくは、重要人物な筈なのに此の後出てこない少女の呟き
ラドスを一言で言うと、熊だ。
いつも側にいる私が小柄な所為もあるんだろうけど、肩に乗りそうだとか、手のり姉ちゃんとか……口さがない妹達に誂われるくらいに、でかい。
実際は頭二つ分くらいしか変わらないと思うんだけど……まあね、初対面の相手を六…七……八割方でびびらせることはできるとは思う。
だけれども、私にとっては気のおけない幼友達だし、二つ違いのこの熊とは、いずれは家族になるんだろうなぁと、何となく思っている。
まあ、私達の間に特別甘いものはないんだけど。
そりゃあ、女の子ですもの。
物語みたいに魂を焦がすような恋っていうのにも憧れはするけど、ねぇ?
それはそれで、何かシンドそうだしね。
平穏がなによりと思うわけですよ。
ラドスは寡黙と言えば聞こえは良いけど、要するに口下手で無愛想だ。
いつも怒ってるみたいに見えなくもないけど、私には優しいし可愛がってくれてる、と思う。
おそらく、ラドスの実の妹たちより私の方が可愛がられてる、はず。
多分。
ラドスには、六つ違いでアルラとイーラいう双子の妹がいて、私にはサーラという妹がいる。
この三人は同じ年の所為もあっていつも一緒にいる。
ラドスと三人の妹達は、この街の
メルクリオスさんは街に必要な水道や動力を整えてくれたり、私たちが安全安心便利に暮らせるように色んな事をしてくれている…らしい。
なんかよくわからんけど。
ラドスと妹達の仕事は家の事───食事を作ったりとか、掃除とか、自動車で送り迎えとか、お庭を整えたりして対価を得ているんだとか。
そんな自分でするようなことを態々他人にやって貰って、あまつさえ対価が発生するって……
ん?………じゃあラドスは自動車を動かせるの!と聞いたら、なんと妹達も出来るらしい。
へえ、すごいねえ、ラドス。
すごいねえ、妹達。
て口にしたら顔を真っ赤にしてる。
これはこれで可愛らしいのぉ、とは思うものの、話題を逸らさなきゃ俯いたままでお話にならないので、私にも自動車とか動かせるかな、出来るかな?とその場しのぎで言ったら、やってみれば?と、顔を上げてくれた。
ラドスは思いの外、素早く段取りしてくれた。
自動車や練習場所をメルクリオスさんにお借りしたり、教えてくれる三人の妹達の仕事の時間を調整してくれた。
…うーん、引っ込みがつかなくなったぞ。
そうこうしてるうちにメルクリオスさんのお家にお邪魔する日がやってきた。
うわぁ……や。
こりゃ一人ではお家のことは出来ないわ……ラドスがちっさく見えるくらいでかい。
目の当たりにして初めて、この家を掃除する妹達に感心する。
すごいよ、あんたたち。三人がかりでも掃除だけで一日終わりそうだわ。
そして何より、 綺麗なお庭にうっとりして、このお庭をラドスが整えてるのかと思うと自分のことのように誇らしく思った。
そんなお庭を我が物顔で闊歩していたら、濃い銀色の大きく波打つ髪をした、緑色のきれいな瞳の少年が居て… その少年はメルクリオスさんで…クリストファー…様…にお会いした。
このお家の持ち主であるクリストファー様は私より五つ下で、最近亡くなったお父様の代わりに
家に帰ってからクリストファー様ってキレイねぇ、と口にしたらラドスの顔が強張った。
馬鹿だなぁ、あんなにも人間離れした美しい方とどうこうなるわけないじゃない。
熊みたいな顔して可愛いなあと、思って、頭をわしわししてそのまま胸に抱きしめた。
そのまま動かないラドスの顔を覗き込んだら、今にも泣きそうな顔してて、
目があったらそれでも無理矢理笑おうとしてて、
でも、ちっとも笑えてなくて……愛おしくてラドスの唇に口付けていた。
ラドスは壊れ物に触れるみたいに私を丁寧に扱った。
その大きな体のいったい何処にそんな繊細な要素が有るんだろうとも思う。
私たちは家族になった。
ラドスが死んだ。
あんな屈強な体だったのに、意ともあっけなく病に負けた。
なまじっか体に自信があったから無理が祟った。
私には子供が出来ていた。
妹達が口を利いてくれて、メルクリオスさんのお宅で暮らせることとなり、そのまま子供を産み育てることになった。
アルラが自分が取りあげるんだと張り切っている。
そんなある日、テルルの街に竜巻が起こりクリストファー様が、両親をなくした小さな男の子を引き取られた。
小さな男の子───セイレン様は銀髪碧眼で、どこかクリストファー様に似ていた。
セイレン様はとても愛らしく、私と妹達はそんなセイレン様をとても可愛がった。
だから、セイレン様が私のお産に付き添いたいと言われたときには、多少戸惑ったけれども了承した。
子供が産まれる。
ひどく苦しかった。
私の態度に怯えたセイレン様が、それでも手を握ってくれている。
ずるっと体から異物が出る。
産まれた?筈なのに……一向に産声が聞こえてこない。
セイレン様はいつの間にか私から手を離し妹達の方にいる。
酷い睡魔にも似た眩暈が襲い、頭が朦朧とする。
どこからか子猫のような声が聞こえる。
セイレン様から腕に抱いた小さな包みを渡されると、真っ赤な顔をくしゃくしゃにした赤ん坊が何かを探しているようだ。
なんて小さな手なんだろう。
セイレン様は赤い目をして赤ん坊を愛しげに見つめている。
と、頭がぐるんと回転し目の前が真っ暗になった。
目を開けたらそこは見知らぬ天井だった。
オレンジ色の灯りが大きなガラス窓から漏れていて、看護師さんの姿が見える。
ああ、手術は終わったのか。
点滴を処置されると再び眠りについた。
あたしは杉田
高校一年生…なんだけど、入学式当日に玄関先で転んで踵骨を折って1日も登校せず、入院。
昨日手術して、あと二ヶ月は入院するらしい。
しかし、しんどい夢だったなあ、
―――うわっ!あたし、子供とか生んじゃったよ!
彼氏さえ居たことないってのに!
はいはい。
だから、エッチシーンはスキップですね。
なんか夢とはいえ恥ずかしくなってきたわ。
ふぅ。
気を紛らす為にスマホを弄る。
あ、【 デイムメイカー 】だ。
おぉ、クリス様だわ。
やっぱ素敵、渋いわ。
こーゆーゲームで子持ちのおじさまが攻略対象ってどうなん?と思うけど良いものは良い、
推せる。
……あら?
そういえばクリス様の息子ってセイレン様よね。
セイレン様?
あれ?
【 デイムメイカー 】は育成シュミレーションというやつだと思う。
あたしはゲーオタってわけじゃないから詳しくは知らない。
そもそもキャラ絵師さんがすごい好きで、ゲームをやり始めた。
日々美麗なキャラクターに翻弄されていた。
が、ある時気がついた。
あら、クリス様のお声もしや、勢雄さん?
や、ね。
主要キャラの声優さんは、まぁまぁ旬の方々なんですよ、恐らく。
でもね、勢雄さんはですね。
あたしが初めて声を意識した声優さん。
お母さんがアニオタで、あたしは幼いころからアニメの英才教育を受けていて。
その中でも特に『だいこうかいものがたり』てのが大好きで。
脇役だけど渋いキャプテンに夢中だった。
初恋と云っても過言ではない。
で、キャプテンの声を当てていたのが勢雄さんだった。
勢雄さんはその作品の後、現場から退いて、裏方や後進の育成に携わるようになっていて。
けれど!実に十三年振りに現場復帰したのがクリス様。
そりゃ推しますよ!
他のエンディングには目もくれません、て、訳にもいかないのが腹立だしいのだけどね。
このゲームは!
【 デイムメイカー 】
『知性』『教養』『品性』『芸術』『人徳』『忍耐』『勝負運』のパラメータを上げ、あなただけのエンディングを迎えましょう
―――何をするのもあなた次第。
[[rb:最長 > タイムリミット]]二十歳までに、どんなわたしになれるかしら。
と、パッケージに書いてある。
舞台は、一見大正ロマン風だけど日本でも、まして地球でもない。
神様がいない、だから宗教がない。
支配者や、為政者がいない。
軍隊がなく、戦争もない。
貴族制がなく、貧富の差もほぼ無い。
一年は五百日で、百二十五日毎に季節が変わる。
学校はあるけど五歳から十八歳の間に好きなときに好きなだけ行ける。
行かずに働くのもありだ。
あ、あと魔法もない。
そんな世界で、王になったり、教祖になったり、職人になったり。
そうして必要な要素や経験、フラグを回収してお目当ての攻略対象に出会う。
まあ、一周目で迎えるのは平凡な結婚か職業婦人なんだけどさ。
二周目からやっと引き継がれた条件が発動する。
………………あれ?
おじさま枠のクリス様はまだ少年で、息子のセイレン様に至ってはまだ子供だった。
あんな年齢の二人、あたしは知らない。
スマホを辿っても、二次創作しか出てこない。
二人の血が繋がってなかったら…。
…………?あれ?……ん??
?
ま、夢か。
夢。
で、ラドスて誰だ?
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