第4話 入団テストは3対1で

 レアアイテム「古代の石像守護者の魂」は、無事に200億zという破格の値段で売れた。クロネと100億zずつ山分けし、俺は自分の取り分からきっちり100億zをフヨウ経由で返済する。

 返済が完了した瞬間、頭の中でフヨウがぱっと明るい声を出した。


『シキさん、おめでとうございます! 初回返済の特典ですよ!』

「特典?」

『はい! 英雄の遺産の機能が一部解放されました! これで、再現エミュレートで記録したスキルの詳しい情報……消費MPとかクールタイムとかが見られるようになったはずです!』


「これは……」


 手探りで使うしかないと思っていたコピー技の性能が、事前に分かるようになる。ボスの使う未知のスキルでも、一度受け止めさえすれば、そのギミックを丸裸にできるかもしれない。これはとてつもないアドバンテージだ。借金を返すメリットは、残高が減ることだけじゃないらしい。


 残債、9900億z。






 幸先の良いスタートと、新たな力を手に入れた俺たちは、その後もしばらく同じように「穴場」のボスを探しては狩り、着実にゼニーを稼いでいた。とはいえ、先程のような大当たりはそうそうない。


「うーん、やっぱ、個人の情報網じゃ限界があるな」


 【NMO】の首都のカフェで一息つきながら、俺はテーブルに肘をついた。wikiにも載らないような最新の情報を押さえているのは、やはり高レベルのプレイヤーが集まるギルドだ。効率的に、そして継続的に稼ぎ続けるためには、彼らの情報網にアクセスする必要があるかもしれない。


「久々に所属すっかぁ……ギルド」

「え~、私だけじゃ不満っすか?」


 隣でジュースを飲んでいたクロネが、頬を膨らませて露骨に不満そうな表情を見せる。


「そういうわけじゃないが……これはお前のためでもあるんだぞ。俺以外にももっと知り合いを増やしたほうがいい」

「え~~~あにきが居ればそれでいいっすよ~~~」


 そう言ってくれるのは嬉しいが、いつまでも二人だけの世界というわけにもいかないだろう。


「まあ、合わなかったらすぐに抜けりゃいいんだ。試しに探してみようぜ」

「……あにきがそう言うなら……」


 クロネが渋々といった感じで頷くと、はっと何かを思い出したように顔を上げる。


「そういえば、ギルドといえば……あ、ここ勧誘来たことあるっすね。『ホワイトノイズ』っていう……」

「そうなのか?どういう経緯だったんだ」

「1人の時に突然、システムメッセージで勧誘だけが飛んできたんす」

「辻勧誘か……あんまり印象は良くないが、まあ、見てみるだけ見てみるか」


 縁というのはどこから生まれるか分からないものだ。駄目ならすぐ帰ればよし、そんな気持ちで、俺達は『ホワイトノイズ』のギルドハウスを訪れることにした。


 





 ……そこで待っていたのは、ずいぶんとチャラついた格好の男たちだった。ギルドマスターのギレグと名無る男は、ソファにふんぞり返ったまま俺を一瞥しただけで、すぐにクロネに不躾な視線を向けた。


「へえ、可愛いじゃん。で、用件は?」

「あの、ギルドメンバーの募集をされていると聞いて……」

「ああ、やってるやってる。君みたいな可愛い子なら大歓迎だよ。そっちの男は……まあ、ついでに入れてやってもいいぜ?」


 ギレグは俺を無視してクロネにばかり親しげに話しかけ、じろじろと値踏みするような視線を向ける。


 ……大失敗だ。彼らは悪漢《ローグ》クラスのようなので、一瞬そういうロールプレイをしてるのかとも思ったが、そういうレベルじゃない。

 他の悪漢ローグクラスの皆さんに謝ったほうがいい。イメージを損ねている。


[クロネ、ここはダメだ。帰るぞ]


 俺はウィスパーチャット機能でクロネにささやき、立ち上がった。


「すいません、やはり今回は見送らせて……」

「あ? なんだぁ? ノリが悪いな」


 俺の言葉を遮り、ギレグは立ち上がるとクロネの肩を掴もうと手を伸ばす。


 その指先がクロネに触れる寸前――ぱん、と乾いた破裂音が響いた。

 ギレグの伸ばした手は、あらぬ方向へと弾き飛ばされている。


「……あ?」


 ギレグが呆けた声を出した。

 今の破裂音は、俺が放ったジャブがギレグの手首を打ち抜いた音だ。

 どうやら、何をされたかも理解していないらしい。


「他人の身体にべたべた触ろうとするのは、マナー違反だろ?」


 ギレグの顔から笑みが消えた。


「……ほう。面白いこと言うじゃねえか。なあ君、ちょっと決闘PvPやろうよ。入団テストってやつね」

「断る。もう入団する気なんて失せたんでね」


 俺がそう言って踵を返すと、後ろから取り巻きたちの下卑た笑い声が聞こえてきた。


「なんだ、逃げちゃうのか~そりゃ残念!」「まあひと目見たときから弱そうだと思ってたし」


 俺の脳裏に、かつて親友たちと築いたギルドでの思い出がよぎる。苦い結末を迎えてはしまったが、あの頃が本当に楽しかったことには間違いなかった。

 しかし目の前のこいつらは、仲間という言葉の価値も知らない最低の集団だ。少し想像力が足りていなかったな、と自省する。


「……あにきは弱くないもん」


 クロネが、震える声で呟いた。


「いやいやいや!強いやつがここで逃げないでしょ!ねぇ~?」

「こんな弱虫慕ってたら恥かくよ!兄貴分にするなら俺達にしとけって!」


 取り巻きどもも後ろから近寄ってくる。クロネは身を強張らせて俺に縋り付いた。

 そういえば、クロネと知り合ったときも似たようなことがあったのを思い出す。


「……分かった、やってやるよ」


 俺の言葉に、ギレグたちがニヤリと笑う。


「3対1でいい。お前ら3人、まとめてかかってこい」

「はぁ?」


 俺はともかく、クロネにあんな顔をさせたままこの場を後にはできない。

 さっきのが見えてないような相手なら、3人まとめてでも問題ない。


「ははっ、じゃあお望み通り3対1だ。見栄張ると痛い目みるって分からせてやるよ!」


 俺は送られてきた決闘の申請を受諾し、決闘場へと転送テレポートした。

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