第3話 再現《エミュレート》
風の平原。その名の通り、見渡す限りの草原が風に揺れている。クロネの情報によれば、この平原のどこかに目当てのボス――『古代の石像守護者』が出現するはずだ。
「あにき~、あのボス、結構強いそうですけど、どうなんです?」
「問題ない。昔倒したこともあるしな。あいつの使うスキルを考えると……ちょうどいい相手だ」
これから戦う相手は、彼女が一人で挑めばまず勝てないボスモンスターだ。俺もソロだとさすがにちょっと時間がかかるだろう。だが、この戦いは勝つこと以上に、俺の新しい力を試すという重要な目的がある。
「それより……クロネ、一つ約束してくれ」
「なんすか、改まって?」
「英雄の遺産の存在と、その効果は、絶対に誰にも言わないでくれ。もしこれが漏れると、最悪……俺は【NMO】にはいられなくなるかもしれない」
「ええっ!?」
クロネは驚いたような怯えたような声を上げる。
「万一誰かに知られたら、できるだけ口止めして、すぐに教えてくれ。いいな?」
俺の真剣な表情に、クロネもこくこくと頷く。
「わかったっす。ふたりの秘密、っすね!」
「――来たぞ!」
俺が指さす先、地平線から巨大な影が姿を現す。岩石でできた体躯を持つ、古代の石像守護者だ。
「よし、予定通り行くぞ。俺が前に出る。クロネは援護を頼む」
「準備おっけーっす!いつでもいいっすよ!」
『シキさん、がんばって~!』
頭の中に響くフヨウの声に頷き、俺は石像守護者に向かって一直線に駆け出した。感知範囲に入ったボスが、その巨大な腕を振り上げる。来るぞ、あの大技が。
「――ストーンインパクト!」
地面が揺れ、地面が攻撃の予告で赤く染まる。通常ならば、これは避けるべき攻撃だ。だが俺はあえて攻撃範囲に留まり、その直撃を受け止める。HPバーがごっそりと赤色に染まるが、計算通り、ギリギリのところで踏みとどまった。これこそが俺の狙いだ。
「あにき、大丈夫っすか!?」
「問題ない。――『
俺の右手に嵌る《英雄の遺産》が輝きを放つ。受けた衝撃の感覚、スキルの構造、その全てが指輪に記録され、俺自身の力として再構築されていく。俺の拳に、石像と同じ土埃のオーラが宿った。これが、俺に降り注いだ理不尽の代わりに得た力か。
『シキさん、『ストーンインパクト』、使用可能みたいです!』
「うおーっ!私も攻撃するっす!」
クロネの援護射撃が、的確にボスの注意を引く。その一瞬の隙を、俺は見逃さない。
「お返しだ――ストーンインパクト!」
俺が放った拳は、本家と寸分違わぬ衝撃波を生み出し、石像守護者の分厚い装甲を内側から打ち砕いた。
「……本当に敵専用スキルがコピーできたな」
俺はその発動の余韻を噛み締めていた。「スキルをコピーするスキル」自体は、
だが、この『
ボスは断末魔の叫びを上げて光の粒子となり、その場に数多のアイテムをドロップする。
「……うおっ!マジか!」
その中に、一際強く輝くアイテムを見つけ、俺は思わず叫んでいた。
モンスターは、超低確率でその名を銘した「魂」というアイテムを落とすことがある。
ボスモンスターのそれは、非常に高額で取引されるのだ。
「クロネ! 魂落ちたぞ! 魂!」
「まじっすか!? やったー!! ……ええっと、いくらぐらいで売れるんすか?」
俺は獲得アイテムウィンドウから震える手で自分のアイテム欄にそれを移し、相場を検索する。
「……200億zだ」
「に、にひゃくおく!? ……え? はんぶんこでも100億……ひえっ、そ、そんな、や、やっぱ全部あにきの取り分でいいっすよ! あにき一人でも倒せそうだったし!」
クロネは血の気の引いた表情で遠慮しはじめる。
「そういう訳にはいかねえよ。二人で倒したんだから、きっちり分け合う」
「で、でもぉ……あにき、借金が……」
『おめでとうございますっ!』
不意に、俺の隣にフヨウが姿を現した。
「うわっ、フヨウちゃん!」
『シキさんの借金は現在、1兆z。今回の100億zを全て返済に充てたとしたら……なんと9900億zまで減りますよ!』
「……そうだな」
たぶん、元気づけようとしているんだと思う。でもかえって先の長さを強調された気がする。
ボスの魂ドロップなどというのは、超・熱心なプレイヤーであっても月に1回出たらいい方だ。
その幸運をもってしても、進捗率はたったの1%。なんて重さだ。
「……今、100億返しても200億返しても、誤差だ。それよりこの金でクロネの装備をもっと強くしてくれ。お前が強くなれば、もっと先で稼げるようになって、何倍にもなって帰って来るんだぞ」
「わ、わかったっす! 大事に使って、もっと強くなるっす!」
素直に頷くクロネを見て、胸の奥が少しだけ温かくなった。
「……先は長い、な」
それでも、この理不尽な運命に抗うための、始まりの一歩だった。
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