第48話:新王朝の布陣と改革の萌芽
白馬王朝が建国されてから、早くもひと月が経とうとしていた。中原の各地では、趙雲が命じた壮大なインフラ整備計画が、熱気を帯びて実行に移されている。かつて公孫瓚の旧居城があった場所は、今や新しい都の城壁が天高くそびえ立ち、その城門には、白馬王朝の紋章が誇らしげに刻まれていた。春の柔らかな日差しが、真新しい石畳を照らし、まだ土の匂いが残る大路には、活気あふれる露店が立ち並んでいた。遠くからは、焼きたての饅頭や香辛料の香りが漂い、行き交う人々の顔には、安堵と、そして未来への淡い期待が浮かんでいる。
(この国は、武力ではなく、人々の心によって、一つになったのだ……)
趙雲の意識は、既に戦後の統治へと向けられていた。彼の心の中には、皇帝としての重圧と、この計画を成功させるという、確固たる決意が満ちていた。
各地では、様々な改革が同時進行していた。まず、長江では、孫呉の将たちが、趙雲の命を受けた水運整備計画を指揮していた。船大工たちが木材を切り出し、櫓のきしむ音が響き、波が船底を打つ反響が、新たな時代の夜明けを告げているかのようだ。船員たちは、呉訛りの掛け声を交わしながら、趙雲が提示した現代知識を応用した航路図や、船の改良案に感銘を受け、その知略を惜しみなく発揮した。
「周瑜殿、この航路図、まるで天から降りてきたかのような正確さですな!」
「孫権様。子龍殿の知略は、もはや我々の想像を遥かに超えております。この水運を整備すれば、江東は、この国の動脈となりましょう」
周瑜の言葉に、孫権は静かに頷いた。彼の心には、未だ独立への未練が燻っている。しかし、周瑜の言葉と、長江を行き交う物資を運ぶ船の列を見て、その未練は、少しずつ「天下を支える」という新たな使命感へと変わっていきつつあった。
一方、北の荒野では、馬超が、趙雲から学んだ「鉄鐙騎兵術」を、全国の騎兵に広めるための訓練を行っていた。彼の指導は、かつての白馬義従の兵士たちだけでなく、旧曹操軍や旧袁紹軍から降伏した兵士たちにまで及んでいた。
「この鐙は、ただの道具ではない!馬と人が、互いを信じ、支え合うための『思想』だ!お前たちも、この鐙の持つ意味を理解すれば、必ずや強くなれる!」
馬超の熱弁に、兵士たちの心には、新しい騎兵術への希望と、趙雲という皇帝への、新たな忠誠心が芽生え始めていた。
その中で、一人の旧曹操軍の兵士が、馬超に問いかけた。「馬超様。この鐙は、確かに素晴らしい技術でございます。しかし、曹操様は、この技術を、我々から奪い取ろうとした。なぜ、我々は、その技術を、今、学んでいるのでしょうか?」
馬超は、その兵士の言葉に静かに答えた。「かつて、俺も趙雲殿を侮っていた。しかし、趙雲殿は、俺を打ち破った後、俺の誇りを傷つけることなく、この技術を教えてくださった。彼は、武力で支配するのではなく、仁と智で統治しようとしている。それが、この鐙の持つ意味だ」
兵士は、馬超の言葉に、深く頷いた。彼の心の中には、趙雲という存在への、新たな忠誠心が芽生え始めていた。
そして、趙雲の傍らには、常に諸葛亮と鳳統が控えていた。諸葛亮は、宰相として内政全般を司り、趙雲の壮大な構想を、現実的な政策へと落とし込んでいった。彼の知略は、もはや天下泰平の礎石にふさわしいものだった。鳳統は、軍事顧問兼改革推進役として、諸葛亮とは異なる視点から、趙雲の改革を支援した。彼らの間には、互いの才能を認め合う、確固たる信頼関係が築かれていた。
劉備は、仁政の象徴として、各地を巡察し、民衆の声を直接聞いた。彼の温かい言葉と、困窮する民を救うための具体的な施策は、民衆に大きな安堵と希望をもたらした。関羽と張飛も、劉備の隣で、彼の「仁」を支える「武」として、新たな役割を担っていた。彼らは、もはや単なる乱世の猛将ではない。この国の秩序を守り、民を安堵させるための、頼れる英雄となっていた。
その中で、一人の老夫婦が、劉備の前にひれ伏した。
「劉備様……もう、徴兵されることはないのですか?」
劉備は、その言葉に静かに頷いた。彼の瞳には、老夫婦の苦しみを理解する、深い優しさが宿っている。彼の「仁」の心が、白馬王朝の統治に、確かな正当性を与えていた。
趙雲の指揮の下、白馬王朝は、武力ではなく、仁と智で統治される国へと変貌を遂げつつあった。各地の将軍がそれぞれの持ち場で活躍し、趙雲の改革を支援した。旧曹操勢力の将軍たちも、その能力を活かせる場を与えられ、白馬王朝への忠誠を誓っていた。
その中で、一人の旧曹操軍の老将が、静かに呟いた。
「この若き皇帝は、我らを利用するだけではない……」
彼の脳裏に、かつて曹操に仕えた日々が蘇る。曹操は、彼らを武力で支配し、恐怖で統制した。しかし、趙雲は、彼らの能力を信じ、新たな役割を与えてくれた。彼の心の中には、趙雲という存在への、新たな忠誠心が芽生え始めていた。
夕陽に照らされた新都の城壁、城門前で笑い合う民衆、馬上で遠くを見つめる趙雲の背中。この国は、武力ではなく、人の心によって、一つになったのだ。
しかし、その夜、北方からの使者が馬を駆って到着した。息を切らし、「北辺に異民族の動きあり!」と報告する。
趙雲は、その報せに静かに耳を傾けた。彼の瞳には、平和な時代が訪れたと同時に、新たな課題が待ち受けていることが映っていた。彼の心は、既に次の一手、すなわち「統一後の秩序構築」へと向かっていた。
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