第24話:三つの「智」と「仁義」、白馬王朝の礎

中原での大勝利の余韻が残る公孫瓚の陣営に、劉備、諸葛亮、鳳統、関羽、張飛の五人が加わったことは、瞬く間に将兵たちの間に広まり、大きな活気をもたらした。彼らは、劉備の「仁」と、関羽・張飛の「武」、そして諸葛亮・鳳統の「智」が、趙雲の元に集結したことに、新たな時代の到来を予感していた。


その夜、公孫瓚の本陣で、趙雲は新たな仲間たちと共に最初の軍議を開いた。蝋燭の灯りが揺れる円卓を囲むのは、公孫瓚、趙雲、劉備、諸葛亮、鳳統、関羽、張飛。この七人が、これから天下の命運を左右する話し合いを始めるのだ。


まず、諸葛亮が口を開いた。彼の瞳は、床に広げられた中原の地図を冷静に見つめている。


「趙子龍殿の兵力と、これまでの見事な采配、拝見いたしました。特に、兵站と情報戦による袁紹軍の疲弊、そして白馬での曹操軍への一撃は、まさに天下一品の妙技。この孔明、心より感服いたしました」


諸葛亮の言葉に、鳳統が皮肉めいた笑みを浮かべた。


「ふん。あれはただの奇策ではない。敵の心臓を直接狙い、その『智』を機能不全に陥らせる、実にえげつない手よ。この士元も、学ばせてもらうとしよう」


二人の天才軍師の言葉に、公孫瓚は誇らしげに頷いた。しかし、関羽と張飛の顔には、まだ複雑な色が浮かんでいた。


関羽は静かに趙雲を見つめた。


「子龍殿の戦い方は、我らの知る仁義とは、やや異なるように見受けられる。民を救うためとはいえ、謀略の多用は、果たして真の道と言えるのか」


張飛がそれに続く。「そうだ!もっと正面からドンとぶつかってこそ、男の戦いだろう!罠ばかりでは、どうにも腑に落ちん!」


彼らの言葉は、趙雲の胸に、かつて自身が抱いた「違和感」を呼び起こさせた。彼らの「仁義」を重んじる心は、趙雲が効率を追求する中で、時に無視せざるを得なかった感情だ。しかし、この「思想対立」こそが、後の「思想融和」への重要な第一歩となる。


趙雲は静かに首を振った。彼の表情には、彼らの疑問を尊重する心が滲んでいる。


「関羽殿、張飛殿の言葉、もっともでございます。しかし、この乱世は、正面からの武勇だけでは生き残れません。無益な血を流さず、民を救うためには、時に冷徹な判断も必要となります」


趙雲は、自身の「価値観」を彼らに語った。それは、前世で知った歴史の悲劇、そしてこの乱世を「平穏な世」へと導くという、彼の揺るぎない「信念」だった。


「私の目的は、この乱世を終わらせ、民に安寧をもたらすことです。そのために、最も早く、最も犠牲の少ない道を選びます。それが、たとえ泥臭く、謀略に満ちた道であったとしても」


その言葉に、劉備が深く頷いた。


「子龍殿の志、しかと受け止めました。貴殿の『力』と、我らの『仁』。そして孔明殿と士元殿の『智』が合わさるならば、この天下に敵はおりますまい。民の笑顔のために、共に戦いましょう」


劉備の言葉は、関羽と張飛の心にも響いた。彼らは、劉備の「仁」が趙雲の「合理性」を受け入れたことに、納得と、そしてある種の「必然性」を感じていた。彼らの間で、「納得できない沈黙」から、互いを理解しようとする「助走」が始まったのだ。


軍議は、天下統一の具体的な戦略へと移った。


「当面の敵は、やはり曹操。彼は白馬で大敗しましたが、その軍勢は依然として強大です」


諸葛亮が冷静に分析する。


鳳統がそれに続く。「しかし、彼の軍師たちは既に疲弊し、その『智』は機能不全に陥りつつある。そこが最大の隙です」


趙雲は、自らが仕掛けた曹操軍師への布石が、確実に効果を発揮していることを確認した。彼は、曹操軍を完全に無力化するための、次の段階の策を提示する。それは、情報戦と兵站戦でさらに追い詰め、最終的に大規模な野戦で曹操の主力軍を壊滅させるという、周到な計画だった。


関羽と張飛は、その策の残酷さに目を瞠るが、劉備の「民のため」という言葉、そして趙雲の揺るぎない信念を前に、やがて頷いた。彼らの「武」は、この「智」に導かれることで、真の力を発揮するだろう。


軍議の終盤には、西涼の馬騰・馬超、そして孫堅・孫策・孫権といった南方の勢力との連携についても話し合われた。趙雲が築き上げた、見えざる「貸し」と「繋がり」が、ここで明確な戦略へと組み込まれていく。


公孫瓚は、この軍議の様子を満足げに見つめていた。彼の夢見ていた天下統一が、趙雲の指揮の下、現実味を帯びていく。


夜が明け、新たな一日が始まる。公孫瓚の陣営には、趙雲という新たな柱を中心に、歴史を動かす新たな力が集結した。彼らが練り上げる戦略は、まだ誰も知らぬ、白馬王朝へと続く確かな道筋を示していた。

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