第2話
魔王。人類の敵にして、邪悪な存在と謳われるもの。神の敵と言われ、この世から粛清すべき存在。多数の配下を従え、人類の支配領地外を囲む、開拓を邪魔する存在。そんな存在に、▓▓▓▓は成った。
「……もう前の名前も、要らないかもな」
▓▓▓▓は歩きながら、そう考える。王国外に出て、魔族と言われる存在が跋扈する地域を歩き続けて2日が経過している。その間、魔族に襲われ続けたが、全て殺し尽くしている。
「……綺麗な景色だな」
目の前に広がる大きな湖を見て、口からそう溢れる。すると、とある言葉が閃く。
「……ユグレナ」
いい響きだ、と思う。そうして彼は元の名を捨て、ユグレナと名乗った。魔族の死骸の上で、彼は小休憩をした。
それから数日後。彼は小さな平原にはいった。入ってまもなく、彼は小さな村を見つけた。自分の元いた村よりも小さい規模の村。彼らも彼らの生活をしていると思うと……
(……何も思わないな)
これが、魔王になった結果なのか、他人に対して情を抱きにくくなった。赤の他人に対しては、もはやなんの感情も起きない。
(……ここを拠点にしてもいい)
そう考えた俺は、この村に入ることにした。一応、服装も荒れているので、流浪人という体で受け入れられるだろう。そう思い、村へと近づいたが。俺に迎えられたのは、魔法だった。
「人間が!殺してやる!」
「俺たちの村から離れろ!」
止めている奴らもいるようだが、大半はオレに魔法を放っている。全員殺してもいいが、そうなると俺の話し相手になるやつがいなくなる。最近は、1人の寂しさを肌に感じてきた。時たまに誰もいないのに████や親父、お母さんに話しかけたりもする。おれの目標のためにも、精神崩壊など起こして目標を見失うのも考えものだ。だからこそ、止めているヤツらを残し、俺に魔法を放っているヤツらを皆殺しにする必要がある。
(……大変だな)
魔王になったとはいえ、元は人間。扱える魔力量は少量。魔法を受けながら考えた俺は、俺の生成できる限界、3人ずつ撃破することにした。
『
そう唱えると、俺の頭上に3本の炎の矢が生成される。お爺さんは、
『属性を唱え、己の想像するカタチを浮かべる。それを魔力によって具現化する。簡単じゃろ?』
と言った。俺はお爺さんの修行法を通して、具現化に必要な想像、魔力を鍛えた。
(これくらいならいいだろ)
そう思い、1番前で魔法を放つ3人に炎の矢を放つと。炎の矢は3人の胸に刺さり、たちまち燃え出した。必死に消火に取り組んでいるようだが、炎は消えるどころか激しく燃え出している。
「なんで火が消えないんだ?!」
「早く!魔力の源を壊せ!」
「もう壊してる!なんで魔法が消えないんだ?!」
(当たり前だ。お前らが壊したと思っているのは、魔力の源に扮した魔力の集まりだ)
3人に注目が集まっている間に、俺はどんどん炎の矢を放つ。魔法を放ったヤツら全員に炎の矢はあらかた放ち終わった。彼らを制止しようとしていたヤツらは、燃えているヤツらを見てただ立ち尽くすしかしていなかった。そんなヤツらに、俺は声をかける。
「お前らはどうする?」
奴らはビクッと震える。ヤツらの生死は俺が握っているためか、怯えているように見える。
「俺は、ただ話し相手が欲しいだけだ。別に配下になれとも……」
そう言いかけるが、ヤツらは互いを見て頷き、俺に頭を下げ、跪く。
「我々一同、あなたに従います」
先頭のヤツが、そう言った。聞いたことがある。魔族は、強いやつに従うと。ヤツらは俺を強者と認めたということだろう。
「俺はお前らの家族友人を殺したぞ」
「彼らは挑む相手を見誤ったということです」
「庇わないんだな」
「強者の言うことが正しいので」
「俺には掌返した薄っぺらい理論に聞こえるぞ」
それには黙り込んでしまった。俺はため息をつく。
「従わなくてもいいから、たまに話し相手になってくれ。それと、強くなりたいから魔法と剣と戦術論について教えてくれるやつはいないのか?」
「有名どころですと、あちらに見える山の頂に条件に合うものがいらっしゃいます。6人の魔王の誰にも従っていないのですが……」
「……わかった。とりあえず、今から向かうから、俺の住まう家を建てておいてくれないか」
「分かりました。いってらっしゃいませ」
そう丁寧に礼をすると、ヤツらは散り散りに散っていった。
(恨みの一つや二つは覚悟していたが)
特に恨みも吐かれずにそのまま去っていった。もしかすると、魔族には負の感情が存在しないのではないか。そんなことを考えながら、ヤツらのうちの一人が言う山へと歩いていった。
***
「まだ帰らないのか」
教会上層部は連日の会議で、神託の元に選ばれた勇者があと1人来ないことに腹を立てていた。
「いつまでもたついているのだ」
「だが、最終手段はとったと聞くぞ」
「南に天に昇る柱が見えた。確実にヤツの心を折ったはずだ」
そんな議論を交わしていると。部屋に伝令が入り込む。
「『静寂の魔王』が王国東の国境に魔族を派遣しました」
「よかろう。では勇者一行を向かわせよ」
「了解しました」
そのまま、伝令は下がる。
「それで残り一人の勇者はどうしたのだ」
「わからんと言っただろう!」
「予定よりも大幅に遅れているのだ、何かが起きたに違いない」
その勇者も魔王へと堕ちたことは、誰も知らない。知っているものは皆、この世にはいない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます