排除令 ─悪霊たちの鎮魂歌─

シリウス Sirius

第1話:透明人間になった日

ニュース速報


「本日、特別法『排除令』が国会で可決されました。

排除令は、社会秩序を乱す恐れがあると判断された個人を、社会から完全に隔離することを目的としています。

国民は対象者との会話・接触・取引を禁止され、違反者は罰則の対象となります。

賛成票は衆議院の8割に達し、国民からも支持率82%という異例の高さを誇っています。」


 朝のニュース番組から、淡々としたアナウンサーの声が流れた。

 「無視することで争いを減らす」

 ――そんな馬鹿げた理屈を、国が本気で法律にしてしまった。



藤堂悠真、17歳


 「……バカバカしい法律だな。」

 画面を眺めながら呟いたのは藤堂悠真。

 制服に袖を通し、朝食の席に座る。母の焼いたトーストを頬張りながら、父と何気ない会話を交わした。


 「こんな法律、誰が最初に試されるんだろうな?」

 父が新聞をめくりながら笑う。

 「さあな。少なくとも、俺じゃないだろ。」

 悠真は気にも留めなかった。


 その時――ポストに、一通の封筒が届いた。



排除対象通知


《特別通知:排除対象指定》

対象者:藤堂 悠真(17歳)

危険度スコア:72.1

本日より、国民はあなたと会話・接触・取引を一切行ってはならない。

違反者には罰金および懲役刑が科せられます。


 「……え?」

 震える手で封筒を持つ悠真。

 父が怪訝そうに覗き込み、母は顔色を失った。


 「何だこれは、間違いだろう?」

 「悠真、心当たりは?」

 「ないよ! 何もしてない!」


 言い争いの最中、玄関のチャイムが鳴った。



家族の崩壊


 黒いスーツの治安局員が立っていた。

 「排除対象の家族は接触禁止。違反の恐れがあるため、同行してもらいます。」


 「は? ふざけんな! 息子を――」

 父の言葉は途中で遮られ、無理やり腕を掴まれた。

 母の悲鳴もむなしく、二人は黒い車に押し込まれた。


 悠真は呆然と立ち尽くした。

 わずか10分で、家族も日常も奪われた。



孤独の始まり


 学校に行っても、誰も話しかけてこない。

 担任が黒板に名前を書くとき、彼の席だけ空白になった。

 「先生、俺は?」と聞けば、無表情で視線を逸らす。


 スーパーで買い物しようとしても、レジの店員は商品をスキャンせず、ただ後ろを向く。

 財布に入っていた千円札を差し出しても、誰も手を伸ばさない。


 ――その時、悠真は理解した。

 「俺は、この国で透明人間になったんだ。」



エピソード終盤の一撃


 夕暮れ。

 腹を空かせた悠真は、コンビニで棚に並ぶパンを手に取り、レジを素通りした。

 振り返っても、誰も追いかけてこない。


 「……止めないのかよ。」


 初めての窃盗だった。

 しかし、その罪悪感よりも、**「誰からも存在を否定される恐怖」**の方がずっと重かった。


 その夜、悠真は匿名掲示板に書き込んだ。


「排除された。

もう俺は、悪霊として生きる。」

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