戦国怒涛 ~弱小領主による『天下統一』~無実の罪で殺されそうなので修羅の国を統一する!!〜

逆川水府@毎日更新

第1章 修羅の国からこんにちは

第1話 転生、ここが何処だかわからない

1567年7月 筑紫地方 勝尾カツノオ


 目を覚ますと城は大軍に囲まれ陥落カンラク寸前だった。

 父親は腹を切っているし、ここが何処で自分が誰かもわからない。

 ここから普通に逆転する事もあるらしい。



※  ※  ※



 死んだ俺は幽霊のようだった。


 音も色もない灰色の世界、気づくと俺の目の前で、まだ幼い武者が自害しようとしていた。

 その子が震える手で小刀を自分の首に刺そうとした時……

 俺は思わず止めようと手を伸ばしたんだ。


 すると子供の体に吸い込まれて世界が真っ白になった。





 耳鳴りと共に目を覚ます。

 起きた瞬間に不愉快さを感じる、最悪の目覚めだ。


 何とか目を開きぼんやりとしていた視界がはっきりしだすと、具足グソクを付けた男達がこちらを覗き込んで何か叫んでいた。


 耳鳴りで何を言っているかわからん。

 知らないおっさんは無視してとりあえず上半身だけでも起き上がる。

 体があまりに重く、血の匂いがした。

 まさか大怪我をしてしまったか?


 慌てて体を見たがパッと見た感じでは出血していない。

 両手をにぎにぎする、動く。

 呼吸、深呼吸だ、これもできる。

 ボーとするし不快さはあるが、とりあえず五体無事のようだ。


 少し安心して周りを見渡した。

 床は木の板。天井も木だ。


 ここはどこだ。


「若っ!」


 突然耳が聞こえるようになって、世界に色が戻った。

 天井から視線を落として周りを見ると、男たちが心配そうにこちらを見ている。


 ワーワーと遠くで戦いの様な音が聞こえる。硝煙の匂いがする。

 呼びかけてきた男たちはよく見ると傷だらけだった。


「若が自害しようとするところをソレガシが御停め致しました。小太刀が喉をそれてようござった。殿の後を追うなぞ考えてはなりませぬぞ、後生でござる」


 俺が混乱していることを見て取ったのか、男の一人が俺の目を見つめて説明をしてきた。自害? 俺が?


 自分の首を触ると布と薬草のようなもので首を押さえつけてあった。乾いた血が首にこびりついている。喉を突こうとして逸れて脈をかすったか。だがそんな記憶はない。代わりに21世紀を生きた記憶ならある。


 普通の家で生まれ大学で働き、歴史技術の再現をテーマに研究と執筆、企業案件をこなして生活していた。

 最近は幕末の帆船ハンセンを復元して航海に出たら嵐に会って死んで

 それで幽霊みたいになって……ああ、この小さい体は吸い込まれた子供のものだ。俺はこの子供に取り憑いているのか。


 目の前で「ようござった」と呟いている目の赤い、涙を溜めているおっさんに俺は誰ですか? と聞きたい衝動が沸き起こるが、それはまずい。頭がおかしくなったと思われる。


 周りを無視してガバっと立ち上がった。体が元気だと見せた方がいい気がした。


 さっきから遠くで聞こえる戦闘の様な音が気になる。開きっぱなしの扉の向こうに外が見えた。山の中にある建物のようだ。日が低く空が焼けている。

 戦っている様子は見えないが……


「外はどうなっている」


 目が赤くなっていたおっさんに尋ねる。


「大手曲輪クルワが落ち申した。また二の丸にもせ手が近づき威嚇しております。北の搦め手カラメテに気づいた様子はありませぬが時間の問題かと思われまする」


 素直に質問に答えてくれるのは良い。若と呼んでくれているんだから、殿がいてこの体はその嫡男チャクナンだろうか。

 さっき殿様が死んだようなことを言っていたな。


「親父はどうなった?」

「……そこに」


 一瞬の間をおいておっさんが目くばせすると、視線の先に上半身だけ布を被った遺体があった。


 嫌な予感がする。

 ギシギシ音のする床をゆっくり歩いて近づくと、倒れた体の頭のところだけ布が凹んでいるのに気づいた。敷かれてあるゴザに大量の血が染み出ている。


「首は?」


 俺が聞くとおっさん共はお互いに顔を見合わせた後、初老の老人が口を開いた。


「殿は自分の首をもって降伏するように御命令くださりました。降伏の使者に首を持たせてあります。じきに敵の寄せ手も静かになりましょう」


 首を持つとか戦国時代かよ。いや、まぁそのくらいの時代なんだろうな。鎧がそれっぽい具足グソクだし、銃声のような音も聞こえた。落ち武者っぽくなっている人もいる。


 顔も知らん親父は使者を出す前に自害したのか。

 無条件降伏ってやつか?

 目の前の爺さんに色々聞きたいが、状況がわかりませんとは言えない、わかった風を装って上手く現状を聞き出さねば。


「降伏の条件は?」

「所領安堵、殿以外の全員の御助命を仰せつかっております」


 無条件降伏ではなかったか。しかし妥当かどうかさっぱりわからん。

 とはいえ俺は若様みたいだし、詳細はわからなくても大丈夫だろう。知っているふりをする方がよろしくなさそうだ。


 あと降伏して一族処刑なんてよくあるパターンだ。俺も殺されるかもしれない。自分の名前もわからないまま死ぬとか笑えん。


 親父は先に首を差し出すことで恭順キョウジュンの意を示したのかもしれないな。家族と部下は見逃してください、ってことだろうか。立派な親父だったのかも。


 自害までして家族のために尽くしたのに、息子が幽霊に取り憑かれるとか酷い話だ。


「それで降伏は全面的に受け入れられそうか?」


 問題ないと言ってくれ、特にこの子の命な!

 期待とは裏腹に爺さんは少し苦渋の顔だ。そして首を振った。

 駄目そう。

 現実ってそんなもんだ。知っているけど。


「少々虫がよろしいかもしれませぬ。我ら激しく抵抗し、特に初戦では大いに敵を打ち破りました。さらに殿は1度はクダりながら事を起こしましたので……」


 親父は1回降伏したのにまた謀反ムホンを起こしたのか、なるほど、そりゃ見逃してもらえるはずないわ。

 命が助からないことがわかっていたから自決したのかもしれないな。


 そしてこのパターンはよっぽど幼くない限り息子も処刑される。


 この体の持ち主は絶望したから自害しようとしたのかもしれない。

 つまり残された俺は、①殺される ②追放 ③出家 ④助命 こんな感じの未来の中から殺される可能性が高いということか。


 目の前のおっさんと爺さんは俺と目を合わせないし、思いつめたような顔をしているし察してしまった。逃げるか?

 みすみす殺される義理はない。北が空いていると言っていたのは、もしや暗に逃げろって事か? 土地勘もないのに無謀かな。

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